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三環系抗うつ薬

三環系抗うつ薬とは?

化学構造に3つの環を持つことから三環系抗うつ薬と名付けられており、60年以上の長い歴史を持ちます。脳内のセロトニン・ノルアドレナリン活性を高めることで抗うつ効果を発揮します。典型的な副作用は、抗コリン作用による口渇や便秘、抗ヒスタミン作用による眠気や体重増加、抗α1作用による起立性低血圧(いわゆる立ちくらみ)などです。

上のRの部分は側鎖といって、いろいろなパターンがあり、いろいろな三環系抗うつ薬の差はここから生まれています。

ちなみに、日本で処方されている三環系抗うつ薬は以下の通りです。

クロミプラミン(アナフラニール
ノルトリプチリン(ノリトレン) 
アミトリプチリン(トリプタノール、アミトリプチリン塩酸塩) 
イミプラミン(トフラニール) 
トリミプラミン(スルモンチール) 
ロフェプラミン(アンプリット) 
ドスレピン(プロチアデン
アモキサピン(アモキサン
(注)アモキサピンは2023年2月にて出荷停止

※ (  )内は商品名です。クリックすると添付文書が開きます。

 

保険適応(日本)

うつ病・うつ状態に対して用いられるのはもちろんですが、末梢性神経障害性疼痛、夜尿症、ナルコレプシーにおける情動脱力発作などに対して保険適応が認められているお薬もあります。なお、パニック障害、強迫性障害、線維筋痛症などに対して三環系抗うつ薬が用いられることもありますが、こちらについては、あくまでも保険適用外です。

 

禁忌

お薬ごとに微妙に異なりますが、緑内障、三環系抗うつ薬への過敏症、心筋梗塞回復初期、尿閉、QT延長症候群、MAO阻害薬の投与中または投与中止後14日以内などが挙げられます。詳しくは、それぞれのお薬の添付文書をご参照ください。

 

歴史

1957年、スイスの精神科医が「この物質は鎮静効果を持っているかもしれない」と考え、ある物質について研究を重ねていたところ、期待していた鎮静効果は見られないかわりに、偶然、抗うつ効果を発見したのが三環系抗うつ薬の始まりです。ある物質とは、今も治療薬として用いられているイミプラミン(商品名トフラニール)です。三環系抗うつ薬は、20世紀後半のうつ病治療において、大きな役割を果たしてきました。2000年以降は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、セロトニン・ノルアドリナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が登場したことで処方頻度こそ減りましたが、今でも治療薬として用いられています。イミプラミンなどの抗うつ薬がなぜうつ病の症状を軽減するのか、たくさんの研究者が探求するうちに、うつ病そのもののメカニズムが徐々に解明されてきた、という功績もあります。(うつ病が起こるメカニズムについては様々な仮説がありますが、別の記事で説明させていただきます。)

 

海外における研究報告および治療薬としての応用

 

うつ病(大うつ病性障害)

当然ですが、うつ病に対して広く用いられています。歴史が長い分、調査研究も多く、抗うつ効果のエビデンスが積み上げられています。比較的古い1993年の研究ですが、1300人以上の患者さんのうち、イミプラミンで65%が改善し、プラセボ(偽薬)では30%しか改善しなかったデータが有名です。ただ、代表的な三環系抗うつ薬であるイミプラミンについて、40以上ある研究のうちプラセボとの差が見られなかったする研究も13ほど存在します。うつ病・うつ状態に対して三環系抗うつ薬は有用な選択肢ですが、その一方で、三環系抗うつ薬で改善しない場合もある、ということになります。
 重症うつ病においては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と三環系抗うつ薬の効果は同等である、との見解が2000年に示されています。ただし、入院中の患者さんに限定すれば、三環系抗うつ薬のほうがSSRI(パロキセチン・シタロプラム)よりも有効という報告も存在しており、結論には至っていません。
 うつ病の再発は、服薬を継続することで明確に減少します。うつ病から改善した後、十分量のイミプラミンを継続した患者さんでは、3年後においても80%で安定を維持。プラセボを服用した患者さんにおいて3年間安定を保てたのは、たったの10%であった、という報告があります。自己判断での服薬中止がいかに危険であるかがわかります。

 

双極性障害におけるうつ状態

三環系抗うつ薬が躁状態を誘発しやすいとの見解がなされており、使用は推奨されていません。これについては、日本・欧米ともに共通していると思われます。

 

妄想を伴ううつ病

うつ病が重症化すると、三大妄想(貧困妄想・心気妄想・罪業妄想)が出現することがあります。貧乏ではないのに「私にはお金が全くない」と悩んだり、精密検査でも異常がみられないのに「私はきっと重い病気を抱えている」と思い込んだり、なにも悪いことはしていないのに「自分は罪深い人間だ」と自分を責めるなど、いくら他人が説得を試みても訂正できない精神状態に陥ります。このような場合、三環系抗うつ薬であるイミプラミン単独では効果は乏しく、改善率は30%程度にとどまる、とのデータがあります。(妄想を伴わないうつ病では65%が改善)。ただし、三環系抗うつ薬の一種であるアモキサピンは妄想を伴ううつ病に効果があるとする論文や、抗精神病薬(幻覚や妄想を治療する薬)の併用にて改善したとする報告もあります。

 

非定型うつ病

本人を取り巻く状況に反応する形での抑うつ気分・倦怠感・過眠・過食・夕方以降に悪化しやすい・人間関係において拒否的・他責的であることなどが特徴で、年齢的には30代までで目立つうつ病です。新型うつ病とも呼ばれ、古典的うつ病の特徴(状況によらない抑うつ気分・不眠・食欲不振・午前中が最も不調、自責的)とは対照的です。三環系抗うつ薬であるイミプラミンの効果はプラセボよりは優れるものの、はっきりとした効果は得られない、とされています。

 

気分変調症(持続性抑うつ障害)

慢性的な抑うつ気分がほぼ1日中続き、それが無い日よりもある日の方が多く、かつ2年以上続いている場合、気分変調症と診断されることがあります。イミプラミンがセロトニン再取り込み阻害薬であるセルトラリンと同等の効果を持つとの報告がみられます。

 

若年層(青年期まで)や高齢者のうつ病

三環系抗うつ薬は小児期から青年期におけるうつ病では、プラセボと差がみられなかったとするデータがあります。また、高齢者のうつ病に対する効果は、非高齢者と比べた場合に比べて効果に乏しい、との報告がなされています。

 

強迫性障害

セロトニン系の機能低下が示唆される強迫性障害に対して、三環系抗うつ薬のクロミプラミン(商品名:アナフラニール)が用いられており、アメリカ食品医薬品局(FDA)において認可されています。日本では強迫性障害の薬物療法としてSSRI(フルボキサミンやパロキセチン)が保険適応となっていますが、海外の調査では、クロミプラミンがSSRIの効果を上回るとのデータもあります。

 

パニック障害

日本・欧米ともに、三環系抗うつ薬が積極的に用いられることはありません。イミプラミンが有効であったとする報告が散見される程度です。

 

慢性疼痛や片頭痛の予防および夜尿症

アミトリプチリンが慢性疼痛や片頭痛予防のために用いられ、少量で比較的速やかな効果(1週以内)を示す調査研究が存在します。また、小児の夜尿症に対するイミプラミンの効果も古くから知られており、米国でも認可されています。

 

副作用か症状か ~判別は意外に難しい~

服薬後に現れた自覚症状が、副作用なのか症状なのか。実はこれを判断するのは容易ではありません。ある抗うつ薬の臨床試験において、プラセボ(実際には薬ではない偽薬)を処方された患者さんが、「副作用」として頭痛を訴えた割合が約2割に達したという報告があります。つまり、「薬を飲んだのでなんらかの副作用が出るかもしれない」という心理的な暗示から自覚症状が出現することもあるわけです。他にも、「抗うつ薬による頭痛の出現率は20%前後であったが、これはプラセボと比べて差が無かった」とする報告もあります。さらに、うつ病の症状として頭痛がみられることもありますから、事態はさらに複雑です。三環系抗うつ薬については様々な副作用が知られていますが、服薬後の自覚症状が本当に副作用なのかどうかを判断するのは難しい、ということを頭の片隅に置きつつ、以下を読み進めていただけたら、と思います。

 

中枢神経系への副作用

三環系抗うつ薬では、日中の眠気、鎮静、ふらつき、倦怠感などが見られるとの報告があり、日常の活動性を低下させることがあります。この副作用を、うつ病の悪化と解釈して薬を増やそうものならば、さらに眠気や倦怠感が強まり、日常生活に支障をきたします。 
 抗コリン作用や抗ヒスタミン作用が、せん妄状態(delirium)の原因となる場合があり、服用量が多くなるにつれ、確率が高まることも知られています。抗うつ薬によって生じるせん妄状態は、うつ状態の悪化と見分けがつかないことがあり、精神科医としての経験値が要求されます。
 けいれん発作は、服用量が増えれば増えるほど起こりやすいとされる副作用です。服用以前にけいれん発作や頭部外傷の既往がある患者さんでは副作用の発現率が上がるという報告もありますが、報告数は少なく、因果関係は解明されていません。(GABA受容体におけるクロライド透過性低下が関与しているという論文もありますが、詳しくは別の記事で説明します。)頻度は多くありませんが、細かくて速い手指の震えが出現することもあります。三環系抗うつ薬の中ではアモキサピンで見られやすいのですが、服用量が多い時にみられ、減量することで軽減します。気になる方は主治医の先生にご相談ください。

 

抗コリン作用による副作用

便秘、口の渇き、かすみ目、動悸などがこれに該当します。適切な眼科治療を受けていない閉塞隅角緑内障を急激に悪化させたり、膀胱の収縮を妨げることで排尿障害を引き起こすことがありますが、これらも抗コリン作用によるものです。抗コリン作用は、アミトリプチリン、クロミプラミンで強く、アモキサピン、ノルトリプチリンは(三環系抗うつ薬の中では)比較的弱めです。

 

抗ヒスタミン作用(H1受容体拮抗作用)による副作用

しばしば、抗ヒスタミン作用による、眠気、食欲亢進、体重増加などがみられます。

 

心臓血管系の副作用

末梢血管の収縮を妨げるα1受容体拮抗作用により、起立性低血圧が出現することがあります。もともと起立性低血圧の傾向がある人、血圧が低めの高齢者、利尿薬を服用している人が三環系抗うつ薬を服用した場合、起立性低血圧がしやすく、立ちくらみの程度も重くなります。また、この副作用は三環系抗うつ薬の服用量が少なくても起こることがあり、減量するだけでは消えないこともあるため注意が必要です。
 頻脈は、抗コリン作用の強弱によらず、三環系抗うつ薬ではしばしばみられる副作用です。通常の治療量で、脈拍数が1割程度増加するという報告があります。服用し続けてもなかなか体が慣れることはなく、減薬しない限りは長期にわたって頻脈が続くことになります。年齢的には、むしろ若い患者さんでこの副作用に悩まされることが多いようです。
 心伝導系への作用は、時に死亡に至ることもある危険な副作用です。心筋梗塞回復初期やQT延長症候群に対して禁忌薬に指定されているものもあります。

 

肝機能への影響

服薬量や血液中の濃度によらず、肝酵素(AST、ALT)が上昇することがあります。急性肝炎の場合は生命に危険が及ぶこともあるため注意が必要です。複数の薬剤が処方されている場合、原因薬剤を特定することが難しくなります。三環系抗うつ薬に限った話ではありませんが、お薬の種類はできるだけ少なくする方が安全といえます。

 

発汗亢進、体重増加、アレルギー

三環系抗うつ薬の服用により発汗が増加する場合があります。おそらくはノルアドレナリンの活性が高まることで交感神経系が刺激されるためと推測されていますが、正確なメカニズムは不明です。また、抗ヒスタミン作用による(炭水化物に対する)食欲亢進や体重増加が起こることがありますが、ノルトリプチリンでは比較的起こりにくいとされています。すべての薬に共通していることですが、薬剤性アレルギーもまれに起こり得ます。かゆみや発疹が目立つ場合は、速やかに服用を中止したうえで主治医にご相談ください。

 

処方量を超える服用は危険

三環系抗うつ薬は、1日投与量の10倍以上を服用した場合、不整脈・けいれん発作などにより死亡する可能性があります。いかなるお薬も自己判断で多く服用することは避けなければいけませんが、三環系抗うつ薬では特に危険です。

 

胎児への影響

安全性を考慮すれば、妊娠中はすべてのお薬をやめられるに越したことはないのですが、病状が悪化するリスクもあり悩ましいところです。有益性と危険性を十分に考えた上で、お薬の継続・中止を判断する必要があります。なお、以前に用いられていたアメリカ食品医薬品局のリスク分類(ABCDX)は廃止されたため、オーストラリア医薬品評価委員会分類(通称、オーストラリア分類)を付記します。

 

 
オーストラリア分類C「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤。これらの作用は可逆的である場合がある」

 クロミプラミン
 ノルトリプチリン
 アミトリプチリン
 イミプラミン
 トリミプラミン
 ドスレピン

「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ投与すること」(日本の添付文書)

 ノルトリプチリン
 アミトリプチリン
 アモキサピン
 トリミプラミン
 ロフェプラミン
 ドスレピン

「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい」(日本の添付文書)

 クロミプラミン
 イミプラミン

 

わずかな構造の違いから異なった作用が生まれる

三環系抗うつ薬と呼ばれる理由は、構造の中心にみられる三環構造のためです。三環構造にどのような側鎖がつくかによって、お薬の性質に大小の差が生まれます。脳内の神経伝達物質の活性を強める力、口の渇きや便秘などを引き起こす抗コリン作用、起立性低血圧や立ちくらみの原因となるα1受容体阻害作用、眠気の原因となるヒスタミン受容体(H1受容体)阻害作用の強弱なども、側鎖の構造が変わることで違いが生まれます。たとえば、アミトリプチリンが他の三環系抗うつ薬よりもα1受容体阻害作用・抗ヒスタミン作用・抗コリン作用が強いことや、クロミプラミンが他の三環系抗うつ薬に比べて強いセロトニントランスポーター阻害作用を発揮するのも側鎖の違いによるものです。

 

活性代謝物の作用も加わる

摂取したお薬が体内で変換され、別の作用を発揮する物質に変化することがあり、それらを活性代謝物と呼びます。たとえば、もとのお薬(イミプラミン、アミトリプチリン、クロミプラミン)はセロトニントランスポーター阻害作用(=脳内セロトニン活性を強める作用)を持ちますが、これらの薬剤が体内で他の物質に代謝されて生まれた物質(活性代謝物)は、ノルアドレナリントランスポーターを阻害することで、脳内ノルアドレナリン活性を強めます。その結果、うつ状態(=セロトニンやノルアドレナリンが減少した状態)を改善します。

 

効果は遅効性 ~効果が出始めるまで2週間以上を要します~

脳内の神経伝達物質であるセロトニン・ノルアドリナリン・ドーパミンの脳内活性を高めるお薬が抗うつ薬であることは他の記事で説明いたしました。しかし、抗うつ薬は遅効性であり、すぐには抗うつ作用は発揮されません。服薬後、神経伝達物質が脳内で上昇したことを脳細胞が察知し、神経伝達物質の放出にブレーキをかけてしまうシステムが存在するためです。お薬の効果が発揮されるには、このブレーキシステムが解除されなければなりません。実は、シナプス前自己受容体(5HT1A受容体,α2受容体)と呼ばれるブレーキシステムを解除するには、少なくとも2週間、抗うつ薬を継続する必要があります。遅効性である理由は、そのように推測されています。

 

小腸で吸収されて体内に広く分布

三環系抗うつ薬は小腸で吸収され、最初に肝臓を通過します。ここで代謝(わかりやすくいうと分解)されなかった分が、全身の血流に乗って、さらにその一部が脳内に到達します。服用後2時間から8時間程度をかけて血液濃度が最大となることがわかっていますが、抗うつ薬の効果が現れるまでは実際のところ2週間以上を要しますので、血液中の濃度がどれぐらいの時間で最大に達するかは重要ではない、ということになります。三環系抗うつ薬は脂溶性であるため、吸収後、体内のほとんどの部分に広がります。また、一部の例外を除けば、三環系抗うつ薬は24時間以上かけて、ゆっくりと体外へ排出されますので、1日1回の服用で作用を持続させられます。

 

肝臓で代謝される ~個人差が大きい~

体内から除去される三環系抗うつ薬は、まずは肝臓で代謝されます。肝臓でどの程度代謝されるかは個人間で差が大きく、同じ量を服用しても、体内の濃度は驚くほど異なることが知られています。肝臓には、チトクローム酸化酵素という薬物代謝酵素が存在し、この酵素は、さらに1A2、3A4、2C19、2D6など多種のタイプに分けられます。人種によっても違いがあることが確かめられており、たとえば、アジア人の20%は2C19を持たないため、主に2C19で代謝されるお薬を服用した場合に体内濃度が上がりやすいことがわかっています。年齢による影響もあり、加齢によって3A4の代謝能力が低下します。以上を総合的に判断してお薬を決める必要があります。このあたりは薬物療法に精通した精神科医にご相談ください。

 

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