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オランザピン

多元受容体作用抗精神病薬(Multi-acting Receptor Targeted Antipsychotics:MARTA)としてアメリカで開発されたのがオランザピンであり、名前の通り、多くの受容体を標的として複雑に作用します。日本では、ジプレキサ、オランザピンの名称で用いられています。

保険適応(日本)

オランザピンは、「統合失調症」「双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善」「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」に対して保険適応が認められています。

 

→添付文書(ジプレキサ

 

禁忌(日本)

・昏睡状態

・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者

・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

・アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)

・糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

 

歴史

米国イーライリリーにおいて開発されたオランザピンが統合失調症患者に初めて投与されたのが1995年。明らかな改善とともに、副作用の錐体外路症状が軽いことが報告されました。いくつかの臨床試験が行われ、1997年、アメリカ食品医薬品局(FDA)に承認されました。日本では、2000年に統合失調症の治療薬として承認されました。さらに、双極性障害の躁症状(2010年)、双極性障害のうつ症状(2012年)、抗悪性腫瘍剤投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)(2017年)についても承認され、現在に至っています。

 

作用メカニズム 

(※専門家向けの内容を含みます)

複数のドーパミン受容体(D2,D3,D4,D5)、セロトニン2受容体(5-HT2)、ムスカリン受容体、ヒスタミン1受容体(H1)、α1受容体など、多彩な標的受容体に対して作用します。さらに、黒質線条体系のドーパミン神経系(A9)よりも、腹側被蓋野から辺縁系に至る経路(A10)を抑制する作用が強いことに加え、5-HT2受容体の阻害作用も錐体外路症状を軽減することに有利に働いています。ただ、H1受容体を阻害することによる眠気と体重増加、あるいは、α1受容体機能を抑制することによる起立性低血圧の副作用が起こりえます。

 

【参考:ドーパミン神経系】

中脳辺縁系(A8、A10)

ドーパミン過剰になると幻覚や妄想などの陽性症状が出現します。

黒質線条体系(A9)

運動をつかさどります。たとえば、抗精神病薬によりドーパミンが抑えられるとパーキンソン症候群などの副作用が出現します。

中脳皮質系(A9,A10)

抗精神病薬によりドーパミン機能が抑えられると、認知機能低下につながります。

漏斗下垂体系:

抗精神病薬によりドーパミンが遮断されると、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)が上昇し、月経異常や乳汁分泌などの副作用が出現します。

 

海外における治療薬としての使用状況

 

統合失調症

本邦のみならず、アメリカ・イギリスともに治療薬として承認されています。1990年代に米国で行われた臨床試験は、初期投与量を1日10mgとし、その後、1日5~30mgで経過を追うものでしたが、簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale:BPRS)のスコアは明らかな改善を示したため、その後のさらなる調査につながっていた経緯があります。古典的抗精神病薬であるハロペリドールと比べて錐体外路系副作用が少ないことに加え、認知機能や陰性症状の改善において、ハロペリドールより優れていることを示す調査研究もあります。

 

双極性障害の躁状態

日米欧ともに治療薬として認められています。アメリカでは双極性障害1型の躁状態または混合状態に対する急性期治療・維持療法に適応が認められています。単剤もしくは、バルプロ酸やリチウムとの併用にて用いられます。

オランザピンの効果を確認するために最初に行われた臨床試験は、プラセボとの比較を21日間にわたって行ったものですが、ヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale:YMRS)においてプラセボよりも明らかにスコアが改善したとの結果でした。その後、49週に及ぶ大規模な追跡調査が行われ、オランザピン群ではYMRSが改善したまま安定した状態が続いたことが報告されました。これ以外にも、リチウムやバルプロ酸(躁状態に対して明らかな効果を持つことが既に知られていた薬剤)との比較試験も行われ、オランザピンが同等の効果を示しています。

 

双極性障害のうつ状態

日米ともに治療薬として承認されています。アメリカでは双極性障害1型のうつ状態に対して用いられますが、SSRIであるフルオキセチンとの併用が前提となっています。2014年に示されたメタ解析の結果においても、オランザピンとフルオキセチンの組み合わせが第一選択であるべき、と結論づけられています。

【参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25283309/

 

統合失調症と双極性障害Ⅰ型に伴う焦燥

アメリカのFDAで治療薬として用いることが認可されています。

 

化学療法に伴う嘔気・嘔吐

適用外使用ですが、アメリカでは5-HT3拮抗薬やデキサメタゾンと組み合わせて使用されています。

 

境界性パーソナリティ障害

非盲検試験ではありますが、8週間のオランザピン服用により衝動性や攻撃性などの症状が著しく軽減した、とする報告があります。その後、この試験をさらに26週延長したところ、プラセボよりも優れた効果を示したようです。

 

神経性無食欲症

拒食と体重減少が問題となる神経性無食欲症に対し、10週以上の期間、オランザピンを服用したところ、18例中10例において体重が増加し、減少したのは3例のみであったとする調査研究があります。

 

主な副作用(ジプレキサ錠)

1%以上で認められる副作用は、傾眠(22.3%)、体重増加(20.1%)、不眠(10.3%)、食欲亢進、トリグリセリド上昇、コレステロール上昇、不安、興奮、めまい・ふらつき、頭痛・頭重、抑うつ状態、構音障害、立ちくらみ、アカシジア(静坐不能)、振戦、筋強剛、ジストニア、ジスキネジア、歩行異常、ブラジキネジア(動作緩慢)、血圧低下、動悸、頻脈、便秘、口渇、嘔気、胃不快感、食欲不振、嘔吐、流涎過多、月経異常、ALT上昇、AST上昇、排尿障害、糖尿病、倦怠感、脱力感、体重減少、発熱、浮腫が挙げられます。

 

妊婦・産婦・授乳婦への投与

添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「授乳しないことが望ましい」と記載されています。なお、オーストラリア分類ではC、すなわち「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤。これらの作用は可逆的である場合がある」と説明されています。

 

服用後の体内での動き(薬物動態)

食事による吸収への影響はみられません。服用後、5時間で最高血中濃度に達し、28時間で半減します。

 

薬物相互作用

オランザピンはグルクロン酸抱合と薬物代謝酵素チトクロームP450 1A2による代謝を受けるため、1A2の働きを阻害するお薬は、血中のオランザピン濃度を上昇させます。たとえば、抗うつ薬であるフルボキサミンは1A2を阻害するため、併用した場合は、2.3倍高い濃度になったとする報告があります。逆に、1A2を誘導する薬剤(たとえば、抗てんかん薬のカルバマゼピン)が、オランザピンの半減期を短縮したとするデータもあります。喫煙も1A2を誘導しますが、実際にオランザピンの代謝に影響がみられた、との報告もあります。

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