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不安障害(パニック障害、全般性不安障害、社会不安障害、さまざまな恐怖症)

不安障害とは


不安障害は、恐怖感や身体的不快感が強まり、さまざまな支障が生じる状態を意味する診断名です。時には切迫した恐怖感や「このまま死んでしまうかもしれない」という差し迫った生命への脅威を感じる場合もあり、必ずしも明確な引き金がない場合も含まれます。ただ、私たち人間が不安を感じるのは、それ自体は異常ではありません。ある程度の不安感はその人のパフォーマンスをむしろ改善するという理論も提唱されています(ヤーキーズ・ドットソンの法則)。しかし、強すぎる不安は人間のパフォーマンスを低下させますので、不安障害を放置ことは賢明ではありません。よく知られているパニック障害や、全般性不安障害、さまざまな恐怖症などが、不安障害という大きなカテゴリーに含まれます。著しい不安という意味では共通していますが、症状の現れ方などを含めてそれぞれに特徴があります。

 

疫学


不安障害の有病率は人口の5~6%であり、そのうち、全般性不安障害が3%前後を占め、残りの2~3%程度をパニック障害や恐怖症(広場恐怖、社会恐怖、特定の恐怖症)など複数の不安障害が分け合う形となっています。年齢は中年期、性別は女性にやや多いとの意見もありますが、私自身、診療現場において性差や年齢差を感じたことはありません。老若男女問わず、誰にでも起こりうると考えたほうが実態に近いです。

 

パニック障害


パニック障害は、繰り返す重度の不安発作が思わぬ状況で不意に生じます。特定の状況に限定して起こるわけではありません。著しい不安がどのような形で現れるかは、人それぞれで異なりますが、持続する強い恐怖感、動悸、頻脈、発汗亢進、息切れ、胸部苦悶、吐き気、腹部不快感、めまい、寒気やほてりなど体温異常などの自律神経症状を認めます。パニック発作の際に息切れや呼吸苦悶感から過呼吸に発展し、四肢のしびれや冷えを伴うこともあり、いわゆる過呼吸症候群と呼ばれています。震えやこわばりなどの筋緊張症状などがみられたり、離人感(自分が自分ではない感覚)、自己をコントロールできなくなる感覚、このまま死んでしまうのではないかという恐怖にもしばしば発展します。ただ、パニック発作そのものは数分から長くても30分程度ですので、医師の診察を受けることには既に治まっています。(患者さんが救急車で病院に到着した時には既に症状が無くなっていて、私自身、「・・・患者さんはどなたですか?」と救急隊に尋ねた経験は数限りなくあります。でも、患者さんは「本当にこのまま死んでしまうかもしれない!」と激しい恐怖に襲われて救急車を呼んでいるのですから、もちろん1ミリも悪くありません。)
 有病率は人口の約1%程度とされています。20代半ばから40代半ば、特に欧米では女性に多いとのデータもありますが、前述の通り、私自身は、年代や性別の偏りを感じません。個人的には10代や50代の男性のパニック障害も数多く経験してきました。潜在的なパニック障害を見逃さないためにも、年齢・性別にこだわりすぎないことが大切です。
 診断の目安ですが、以下のうち4つ以上を満たす状態(すなわち、パニック発作)が予期しない状況で繰り返される場合にパニック障害を疑います。ただし、乱用薬物や身体疾患(甲状腺機能亢進症など)が原因の場合は除きます。

・胸がドキドキする(動悸)
・冷や汗など、とにかく汗が止まらない
・手足や体の震え
・息苦しくて、息が切れそうになる
・窒息しそうな感覚
・胸の痛みや不快感
・吐き気やお腹の不快感
・めまいや気が遠くなる感覚
・しびれたり、うずいたりする異常な感覚
・現実感を失ったり、自分がやっているという感覚が乏しくなること(離人感)
・自分がコントロールできなくなり「どうにかなってしまうのでは」という恐怖
・「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖

 

原因とメカニズム


パニック障害のメカニズムはまだ不明な点が多いとされています。ノルアドレナリン神経系を司る青斑核がなんらかの理由で異常興奮を起こし、大脳辺縁系や大脳(前頭葉)におけるセロトニン機能低下があいまって、パニック発作に至ると推定されています。青斑核の近くには、自律神経のコントロールセンターである視床下部が存在します。諸説ありますが、さまざまな自律神経症状(動悸、発汗、呼吸苦、平衡感覚異常、体温異常など)は、青斑核の興奮が視床下部に過度に伝わった結果とイメージいただくのがわかりやすいと思います。

 

治療


薬物療法
脳内のセロトニン機能低下がメカニズムの一つですので、抗うつ薬(SSRI、三環系抗うつ薬)を用います。しかし、抗うつ薬は即効性がないため、異常興奮をひとまず鎮火するために抗不安薬を併用します。また、SSRIの開始初期は一時的に不安が強まることもあるため、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を併用せざるを得ない場合があります。ただし、長期に連用すると耐性・依存性が起こるため、あくまでも使い方には注意が必要です。なお、SSRIの効果が乏しい場合は、三環系抗うつ薬を用いる場合もあります。
 困ったことに、一般的な薬物療法のみでパニック障害が寛解する率は2割から5割に過ぎません。そのため、それ以外の系統のお薬も選択肢とせざるを得ない場合もあります。たとえば、本来はてんかんや幻覚妄想状態の治療に用いるお薬(抗てんかん薬、抗精神病薬)を補助的あるいは追加的に用いることもありますが、日本では保険適用外であること、エビデンスが強固ではないこと、そしてなにより、一部の抗てんかん薬が妊娠に対して禁忌であることに留意しなければなりません。使用する際は薬物療法に精通した精神科医にご相談ください。
(参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33815761/

 

認知行動療法
状況に対する見方・捉え方(=認知)が、ネガティブな反応を引き起こすようなパターン(=認知の歪み)に陥っていないかどうかを確認し、好ましい反応を引き起こすような考え方(=適応思考)に変えてゆくことを目指します。抗うつ薬と同等の効果を持つことが確認されており、併用すれば、さらに治療効果が上がることが知られています。

 

マインドフルネス
Massachusetts大学のジョン・カバットジンが、仏教の瞑想法を西洋医学に応用する形で今から約50年前に考案したのがマインドフルネスです。今この瞬間における自身の心と体の感覚に意識を向け、自らの心身に起こっている変化・現象をありのままに受容する方法です。心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病にも応用されています。認知行動療法と相性が良く、ストレスケアの分野において注目を集めています。

 

生活習慣
コーヒー、コーラ、チョコレートなどに含まれるカフェインは、摂取しすぎるとパニック発作を引き起こす要因になりえます。治療中はなるべく避け、麦茶・ルイボスティーなどカフェインを含まないものに置き換えましょう。どうしてもコーヒーが飲みたい方は、ノンカフェインコーヒーがお勧めです。(私が医師になった20年以上前は、患者さんにノンカフェインコーヒーをお勧めしても「おいしくないから無理です」と断られることがしばしばでしたが、最近のデカフェは格段に美味しくなっています。)タバコも発作を誘発することがありますが、その一方で、禁煙が精神不安を悪化させることもありますので、話は単純ではありません。睡眠不足、疲労蓄積、感冒などの体調不良も発作の引き金になることがありますので、月並みですが、日頃の体調管理を怠らないことが大切です。

 

全般性不安障害(General Anxiety Disorder: GAD)


慢性的な環境ストレス(学校、職場、家庭など)があり、それに対して過度に心配になったり不安にさいなまれる状態が3週以上続いた場合、この診断が当てはまる可能性があります。精神不安(過度の心配、イライラ、集中困難)、筋緊張(震え、こわばり、頭痛)、自律神経症状(ふらつき、めまい、発汗亢進、動悸、呼吸苦悶など)がみられ、症状が強弱を繰り返しながら慢性化するものを指します。ただ、実際の診療現場では、「不安障害であることは確かだが、パニック障害でも恐怖症でもない場合」にGADと診断されることが多いと感じます。診断の際は、全般性不安障害と似た症状を引き起こす別の病気についても注意しなければなりません。甲状腺の病気、副甲状腺の病気、低血糖、褐色細胞腫、内服薬の減薬直後、断酒直後、カフェインの過剰摂取などでも似た症状が起こりえるからです。
 有病率は全人口の3%程度と言われており、成人早期に始まり、男性よりは女性が多いとも言われています。(ただし、私は性差は感じません。男性にも少なからずGADの方はいらっしゃいます。)


 
治療


SSRI、抗不安薬が主となりますが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を4週以上の期間にわたって連用するのは、できるだけ避けたいところです。依存・耐性がきわめて少ないアザピロン系抗不安薬(セロトニン1A部分作動薬)をうまく取り入れる必要があります。慢性的な環境ストレスが関連していることが少なくないため、認知行動療法と環境調整も大切です。(環境ストレスの関与があまりにも明らかである場合、もはや、GADよりは適応障害との診断が適切であり、問題解決を図るうえで環境調整の占めるウェートが大きくなります。)

 

社会恐怖(社会不安障害)


社会不安障害(SAD)、あるいは、「あがり症」のほうがイメージしやすいかもしれません。青年期に始まることが多いとされていますが、社会生活において支障が大きくならない限り、未治療のままになっていることが少なくありません。あまり親しくない人たちの前で注目を浴びることで、不安、恐怖感、赤面、震え、嘔吐などが強まり、苦手な状況を避ける(もしくは、ひたすら耐え忍ぶ)ようになります。ほとんどすべての状況で症状が強まる場合を全般型、限られた状況のみであれば非全般型とも分類されます。治療はSSRIが主流です。(日本ではあまり一般的ではありませんが、欧米ではSNRIも用いられます。)

 

その他の恐怖症


限られた特定の事象に対する恐怖症です。特定の人物、特定の状況(高所、動物、航空機に乗る、血を観ることなど)への著しい恐怖が特徴です。この種の恐怖症には段階的暴露療法が主流であり、(あくまでも補助的に)薬物療法が用いられています。

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