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ミルタザピン

ミルタザピンは、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant: 略称はNaSSA)に分類されます。日本では、リフレックス、レメロン、ミルタザピン、ミルタザピンOD錠の薬剤名(商品名)で処方されています。

保険適応(日本)

「うつ病・うつ状態」に対して認められています。

→添付文書(リフレックス

 

禁忌(日本)

・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

・モノアミン酸化酵素阻害剤を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者

 

歴史

ミルタザピンは、1980年代にオランダで開発され、1994年にオランダで、1996年にアメリカで、うつ病に対する使用認可を受けた歴史があります。日本では、2009年以降、うつ病・うつ状態の治療に用いられています。

 

作用メカニズム

セロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンなどの再取り込み阻害作用を持たず、青斑核の神経細胞体に存在するα2自己受容体(ノルアドレナリンの放出にブレーキを掛けるシステム)を阻害することで、ノルアドレナリン放出を増強します。また、α2受容体はセロトニン放出に対してもブレーキをかけますので、セロトニン放出も促されます。ミルタザピンは、抗ヒスタミン作用(H1受容体阻害作用)を持つため、眠気を引き起こします。この眠気は副作用ではありますが、逆手に取れば、不眠に対しては治療的に働きます。

 

治療薬としての位置づけ

軽症から中等症のうつ病では、SSRIやSNRIが主流となっていますが、ほとんどの抗うつ薬は効果が現れるまでに、2週から3週以上の期間を要します。これに対して、ミルタザピンは比較的短期(およそ1週間)で効果を発揮する場合があります。うつ病では、不眠が多く見られますが、ミルタザピンは深い睡眠(ノンレム睡眠のステージ3および4)を増やすことで睡眠の質を改善します。また、食欲を上げる作用も持ち合わせており、総じて、不眠や食欲低下を伴ううつ病では有効な選択肢となります。

 

海外における研究報告および治療薬としての使用

 

うつ病

ミルタザピンは、プラセボとの比較における有効性が示されています。三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンと同等の効果を持ちつつ、抗コリン作用や心血管系の副作用は少なかったとする報告があります。また、フルオキセチン(日本では未承認のSSRI)と同等の効果を認めたとする多施設共同研究や、シタロプラム(これもSSRI)と同等の有効性・忍容性があったと報告されています。ベンラファキシン(日本ではイフェクサーとして知られているSNRI)との比較も行われ、メランコリー親和型うつ病(強い責任感、他者への配慮、真面目、融通が利かない、仕事熱心などの特徴を持つ)に対して同等の効果がみられた、とするデータもあります。SSRIによる治療を行っても改善が見られなかった症例においてミルタザピンへの変更を行ったところ、半数の患者さんに改善が見られたとする論文があります。また、抗うつ薬にて改善が見られない場合でも、ミルタザピン追加により明らかな改善(ミルタザピン追加群45% vs プラセボ追加群15%)を示したとする臨床研究も存在します。他の抗うつ薬で改善が見られなかった場合、ミルタザピン追加は一つの治療選択肢になりそうです。

 高齢者の中等度から重症のうつ病治療に用いたところ、プラセボよりも明らかに有効であり、安全性も高かったとする臨床試験があります。あくまでも海外のデータではありますが、老人性うつ病に対しても、使いやすいお薬といえそうです。高齢者のうつ病では、不安感・焦燥感が強いことが多いのですが、うつ病と全般性不安障害(GAD)を合併した症例に対する8週間の臨床試験において、ミルタザピンがHAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)とHAM-A(ハミルトン不安評価尺度)のスコアを明らかに改善させたとの研究があります。なお、この研究では治療効果が服用開始1週間後からみられており、他のほとんどの抗うつ薬(効果が現れ始めるまで2~3週かかる)よりも、短時間で効果が得られる可能性が示唆されています。

 

気分変調症

ミルタザピンを10週間服用する臨床試験が行われ、15人のうち8人で改善がみられ、そのうち4人は寛解したとするデータがあります。気分変調症は抗うつ薬への治療反応性が比較的乏しいことを思えば、悪くない治療成績ともいえます。

 

その他

日本では保険適応とされておらず、欧米でも正式には認可されていませんが、外傷後ストレス障害(PTSD)、発達障害の二次症状(抑うつ、不安、自傷行為、興奮、攻撃性など)、統合失調症の陰性症状、難治性の妊娠悪阻、群発頭痛、外傷による慢性疼痛、腫瘍にともなう症状(抑うつ気分、不安、食欲低下、体重減少、嘔気、拒食、不眠、疼痛)に用いられ、症状軽減効果が得られたとの報告があります。

 

主な副作用(日本)

5%以上で認められる副作用は、傾眠(50%)、口渇(20.6%)、倦怠感(15.2%)、便秘(12.7%)、AST上昇・ALT上昇(12.4%)、体重増加、めまい、頭痛などが挙げられます。

 

副作用・安全性(海外)

海外の試験においても、眠気(50%)、食欲増加(30%)、体重増加(23%)などが報告されています。その他、頻度は少ないものの、鎮静、口渇、肝酵素の一時的上昇などもみられるようです。

 

妊婦・産婦・授乳婦への投与

添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続若しくは中止又は本剤投与の継続若しくは中止を検討すること」と記載されています。なお、オーストラリア分類はB3、すなわち「限られた数の妊婦と出産可能年齢の女性に服用されており、ヒト胎児の奇形増加や、ヒト胎児に対する直接的および間接的な有害作用がみられない薬剤。動物研究では、胎児の損傷が増加することが示されているが、ヒトにも当てはまるどうかは不確かである」とされています。

 

服用後の体内での動き(薬物動態)

消化管から速やかに吸収され、胃に食べ物があっても生物学的利用能は変わらない、との報告があります。肝臓の薬物代謝酵素であるP450 1A2、2D6、3A4により代謝され、ほとんどが尿中(~75%)や糞便(~15%)に排出されます。血液中の半減期は20-40時間ですが、肝障害や腎障害があれば半減期が延長する可能性があります。

 

他のお薬との相互作用

薬物代謝酵素であるP450に対して、ほとんど影響を及ぼしません。ミルタザピンは、併用薬の血中濃度に影響を与えにくい、と考えられています。

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