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双極性障害

うつ状態(気分の落ち込みと欲動・活動性の低下)」と、躁状態(多幸感と欲動・活動性の亢進)が少なくとも2回以上反復する状態です。うつ状態は約6か月、躁状態は2週から5か月ほど続くことが多いとされていますが調査により異なります。躁状態が強ければ双極Ⅰ型障害、躁状態が軽ければ双極Ⅱ型障害と分類されます。

 

頻度

双極性障害に限定すれば、出現頻度は0.2%程度とされています。生涯有病率(一生のうちに少なくとも一度罹患する人の割合)は、1~2%と言われています。

 

年齢・性差

20代前半をピークとして30歳までの発病例が多いとのデータもあります。性差はおよそ2:3であり、男女差は大きくありません。

 

遺伝的素因

一卵性双生児の一致率は60%~70%、二卵性双生児の一致率が15%前後というデータがあり、双極性障害の遺伝的素因が示唆されています。また、双極性障害の第一親等では感情障害の出現率が高いとする報告もあります。

 

体型と病前性格

エルンスト・クレッチマー(ドイツの精神科医)が1921年に著した「体型と性格」の中で「躁うつ病者の体型には肥満型が多い」ことが記されています。クレッチマーの循環気質、すなわち、社交的で親切、明朗で陽気、寡黙で不活発という3要素が入れ替わりながら表面化する傾向を持つ、とされています。実業家など周囲に溶け込みやすい人が多く、社会的成功に結びつきやすい性格傾向でもあります。

 

症状

 

<うつ状態>

 

単極型のうつ病・うつ状態と基本的に同じです。感情の障害、思考の障害、意欲の障害などが見られます。

 

<躁状態>

 

感情の障害

 

気分は爽快で上機嫌である一方で、ささいなことで易怒的・攻撃的になったりします。疲労を感じることなく動き回ることができ、自身への評価も過大になります。

 

思考の障害

 

思考が次々と生まれ、多弁となりますが、内容・論理に一貫性を欠き、話にまとまりが無くなります。自身への評価が過大となることから、「自分は天才だ」「将来、総理大臣になる」といった誇大妄想に発展することすらあります。

 

意欲・行為の障害

 

物事への意欲が亢進し、じっとしていられずに動き回ったり、社会的逸脱行為(浪費、奔放な異性関係など)に及ぶこともあります。

 

身体症状

 

睡眠時間は短縮し、少し眠っただけで活動を開始したり、重症の場合は一睡もしなくなったりします。ご本人は疲労を感じていないつもりでも、実際は身体に疲労が蓄積し、衰弱や体重減少が起こったり、飲酒量増加や性欲亢進がしばしばみられます。

 

<混合状態>

 

気分は躁的なのに悲観的思考にとらわれたり、思考力や意欲が低下したり、といった形で躁状態とうつ状態が混ざりあった状態が現れることがあり、混合状態と呼ばれます。

 

発病の原因

遺伝的要素が関連することは過去の遺伝生物学的研究から明らかにされていますが、それのみで決定されるわけではなく、精神的ストレスや身体的負荷なども含めて、総合的に影響を及ぼすと考えられています。

 

診断基準

アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)には、以下のような内容で説明されています。

 

<躁病エピソード>

 

A.異常に高揚した気分が続いたり、開放的になったり、怒りっぽくなったり、といった形で、いつもと違う状態が1週間以上続く。社会生活上、著しい問題を引き起こし、自分や他人に害を及ぼすことを防ぐため、入院を要する状態。

 

B.Aの期間中、以下の症状のうち3つ以上が続く

 

1.「自分はすごい」といった風に、自尊心が過大になる

 

2.「少ししか寝なくても元気」といった形で、睡眠欲が低下する

 

3.いつもよりやたらと多く言葉を発し、しゃべり続けようとして止まらない

 

4.考えが次から次へと浮かぶが、連続性に欠け、会話もまとまらない

 

5.一つのことに集中し続けることができず、簡単にあちこちにそれてしまう

 

6.仕事・学校・性的活動などにおいて異常に活発になったり、焦ったりする

 

7.悪い結果になりそうな行動に熱中する(例:浪費、性的に奔放な行動、勝算の無い事業に投資する、など)

 

物質(例:乱用薬物)、身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)、うつに対する治療(例:抗うつ薬、電気けいれん療法、光療法)によって引き起こされた状態ではない、ということが条件になります。

 

<軽躁病エピソード>

 

A.異常に高揚した気分が続いたり、開放的になったり、怒りっぽくなったり、といった形で、いつもと違う状態が4日以上ほぼ毎日、一日中続く。社会生活上は著しい問題を引き起こすレベルではなく、入院が必要なほどではない。

 

B.Aの期間中、以下の症状のうち3つ以上が続く

 

1.「自分はすごい」といった風に、自尊心が過大になる

 

2.「少ししか寝なくても元気」といった形で、睡眠欲が低下する

 

3.いつもよりやたらと多く言葉を発し、しゃべり続けようとして止まらない

 

4.考えが次から次へと浮かぶが、連続性に欠け、会話もまとまらない

 

5.一つのことに集中し続けることができず、簡単にあちこちにそれてしまう

 

6.仕事・学校・性的活動などにおいて異常に活発になったり、焦ったりする

 

7.悪い結果になりそうな行動に熱中する(例:浪費、性的に奔放な行動、勝算の無い事業に投資する、など)

 

物質(例:乱用薬物)、身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)によって引き起こされた状態ではないことが条件になります。

 

<抑うつエピソード>

 

うつ病・うつ状態と同じです。

参考:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5 (2013)

 

<急速交代型(ラピッドサイクラー)>

 

1年のうちに少なくとも4回以上、大うつ病、軽躁病、躁病または混合状態を繰り返す場合を指します。カルバマゼピンなどが治療に用いられます。

 

双極性障害の診断は容易ではない

過去を振り返った際、うつ状態しか認められなければ、うつ病と診断せざるを得ません。仮に過去に軽躁や躁があっても、ご本人は困っていなかったり、気づいていなかったりするため、医師への報告に結びつかないことが多いといわれています。そのため、双極性障害の患者さんの8割近くが、他の精神疾患(統合失調症やうつ病)と診断されており、双極性障害と診断されるまで8年近くを要した、との調査報告もあるぐらいです。初発がうつ病であれば、うつ病と診断するのは当然としても、統合失調症との判別すら難しいことも往々にしてあり、さらには、注意欠陥多動性障害・パニック障害・強迫性障害・パーソナリティ障害の合併も少なくないことが、診断を一段と難しいものにしています。

 

治療

 

<躁状態>

 

入院治療

双極Ⅰ型障害など躁状態が激しい場合はもちろんのこと、周囲とのトラブル、仕事のやりすぎ、社会的逸脱行為、(睡眠短縮・食事摂取量低下に伴う)身体衰弱を認める場合は、入院を検討する必要があります。

 

薬物療法

気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラミクタール)、抗精神病薬(ハロペリドール、オランザピン、アリピプラゾール、レボメプロマジンなど)を用いる。気分安定薬に抗精神病薬を追加することで、より大きな効果が得られるというデータが複数報告されています。

 

<うつ状態>

 

双極性障害におけるうつ状態では、抗うつ薬を使うべきか避けるべきかで、しばしば意見が分かれるところです。抗うつ作用が行き過ぎれば「躁転」(=ローからハイまで一気に噴き上がってしまう状態)の危険があり、躁とうつを頻繁に繰り返すラピッドサイクラー(急速交代型)への移行を促進してしまう可能性もあります。とはいえ、抑うつ症状が改善しない場合、抗うつ薬を使用せざるを得ない場合もあります。その場合も、気分安定薬は継続したうえで、ドグマチール(一般名:スルピリド)やリフレックス(一般名:ミルタザピン)などを慎重に用いるにとどめます。三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIを用いる場合は、躁転の危険性も含めて慎重に判断しなければなりません。

 

予防投与

 

躁状態・うつ状態ともに、予防的な炭酸リチウムの継続は、半数以上で有効と考えられていますが、うつ状態の予防に対する使用は保険適応は認められておらず、適用外使用となります。

 

ご家族や周りの方のサポート

 

双極性障害の患者さんにとって大変苦しいうつ状態の時期は、全期間の4~5割にのぼります。病状が長引きがちなこの期間に、「なぜ良くならないの?」などといった改善を焦らせるような言葉は禁句です。じっくり待つという姿勢を心がけましょう。躁状態による興奮や逸脱行為が激しい場合、ご本人は心身ともに活力がみなぎっているため、医療機関への受診そのものを拒んだり、服薬の指示に従わないことが少なくありません。しかし、放置すれば事態はますます悪化することが多いため、ためらわず、入院設備のある病院をご本人とご家族で受診してください。事態が急を要する場合は、各都道府県の精神科救急窓口を利用しましょう。

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