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クエチアピン

クエチアピンは、幻覚や妄想に対して効果を発揮するお薬です。オランザピン同様、MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)に分類されます。副作用としての錐体外路症状が少なく、血中のプロラクチン値も上がりにくいという長所を持ちます。幻覚や妄想などの陽性症状だけではなく、自閉や感情鈍麻などの陰性症状に対しても効果を示唆するデータもあります。日本では、セロクエル、クエチアピン、ビプレッソの名称で処方されています。

 

保険適応(日本)

セロクエル、クエチアピンは、「統合失調症」、ビプレッソは「双極性障害におけるうつ症状」 に対して保険適応が認められています。

 

→添付文書(セロクエル

→添付文書(ビプレッソ徐放錠

 

禁忌(日本)

・昏睡状態の患者

・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者

・アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)

・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

・糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

 

歴史

1980年代にアメリカで開発され、動物実験においてD2受容体と5-HT2受容体を遮断する作用が確認され、陽性症状・陰性症状への有効性が示唆されました。1997年にイギリスとアメリカで治療薬として認可され、2000年には日本でもセロクエル錠が承認されました。なお、徐放錠であるビプレッソは、2017年に双極性障害におけるうつ症状に対して承認されています。

 

作用メカニズム

(※専門家向けの内容を含みます)

多元受容体作用抗精神病薬と呼ばれるように、クエチアピンは多くの受容体に対して、阻害したり部分的に刺激したり、といった複雑な作用を及ぼします。クエチアピンもドーパミン受容体D2受容体阻害作用を持ちますが、抗精神病薬の中で最もD2受容体への親和性(結合しやすさ)が弱く、結合してもすぐに離れる、という性質を持っています。それにより、漏斗下垂体系でのドーパミン遮断が起こらず、プロラクチン上昇もごく軽度で済むという利点があります。また、黒質線条体系での持続的なドーパミン受容体遮断が起こらないことで、副作用としての錐体外路症状が少なくて済みます。これについては、5-HT2A受容体の阻害作用黒質線条体系でのドーパミン放出を促すことも寄与しています。5-HT1A受容体を部分的に刺激する作用およびα2受容体の遮断作用は、中脳皮質系ドーパミン経路のドーパミン濃度を上昇させ、統合失調症の認知機能障害や陰性症状を改善につながります。その他、アドレナリン受容体(α1受容体)の遮断やヒスタミン受容体(H1受容体)の遮断は、鎮静作用と眠気をもたらします。

 クエチアピンにはS-dysalkylquetiapineという活性代謝物があり、クエチアピンよりも100倍強力なノルアドレナリン取り込み活性と、10倍強い5-HT1A受容体刺激作用を持っており、これらが抗うつ作用につながっているとも考えられています。

 

【参考:ドーパミン神経系】※専門家向け内容を含みます。

中脳辺縁系(A8、A10)

ドーパミン過剰になると幻覚や妄想などの陽性症状が出現します。

黒質線条体系(A9)

運動をつかさどります。たとえば、抗精神病薬によりドーパミンが抑えられるとパーキンソン症候群などの副作用が出現します。

中脳皮質系(A9,A10)

抗精神病薬によりドーパミン機能が抑えられると、認知機能低下につながります。

漏斗下垂体系:

抗精神病薬によりドーパミンが遮断されると、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)が上昇し、月経異常や乳汁分泌などの副作用が出現します。

 

海外における治療薬としての使用

 

統合失調症

日本と同様、欧米でも統合失調症の治療薬として認可されています。複数の臨床試験の結果を見る限り、クエチアピンは統合失調症の症状全般に対して効果を持つことが実証されています。とはいえ、低用量群(250mg)と高用量群(750mg)で比較した際、陽性症状の改善度がプラセボより有意に優れていたのは高用量群のみであったことが示されています。この研究では陰性症状への効果も調べられており、プラセボよりも有意に陰性症状のスコア(Scale for the Assessment of Negative Symptoms)が改善したのは、750mgのグループのみであったようです。この報告を見る限りですが、高用量ならば、陽性症状・陰性症状ともに有効性が期待できそうです。

 

双極性障害

日本ではビプレッソ錠が「双極性障害のうつ症状」に対して保険適応が認められていますが、アメリカやイギリスでは、うつ状態のみならず躁状態に対しても治療薬として認可されています。なお、アメリカではリチウムやバルプロ酸の補助薬として維持療法に用いることも可能となっています。

 

大うつ病性障害

アメリカでは抗うつ薬の補助剤として徐放性製剤を用いることが認められています。イギリスでは、抗うつ薬の単剤療法に対して部分的に奏効したケースでクエチアピンを追加的に用いることが認められています。

 

不眠症

適用外使用ですがアメリカで用いられています。就寝時に少量服用する形で用いられています。最初は25mgから開始します。

 

主な副作用

(セロクエル錠)

5%以上で認められる副作用は、不眠(19.3%)、傾眠(14.2%)、易刺激性、不安、頭痛、めまい、アカシジア、振戦、構音障害、頻脈、AST上昇、ALT上昇、LDH上昇、便秘、食欲減退、高プロラクチン血症、T4減少、倦怠感、無力症、CK上昇です。

 

(ビプレッソ錠)

5%以上で認められる副作用は、傾眠(50.7%)、口渇(23.5%)、アカシジア、めまい、頭痛、便秘、食欲亢進、高プロラクチン血症、口内乾燥、倦怠感、体重増加です。

 

妊婦・産婦・授乳婦への投与

添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と記載されています。なお、オーストラリア分類ではC、すなわち「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤。これらの作用は可逆的である場合がある」と説明されています。

 

服用後の体内での動き(薬物動態)

クエチアピンの錠剤を服用後、速やかに吸収され、約1~2時間後に血液濃度はピークに達します。主に肝臓で代謝され、側鎖水酸基が酸化されて代謝物M10に至る経路がメインです。また、代謝物M4に至る経路はチトクローム酸化酵素CYP3A4が関与しています。血液中の半減期は約3~4時間です。細粒ではこれらの時間が若干短縮するようですが、大きな違いはみられません。

 

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