アリピプラゾール
アリピプラゾールは、幻覚や妄想を抑える作用だけではなく、気分の浮き沈みを和らげる作用も持ち合わせています。ドーパミン受容体部分作動薬に分類されており、日本では、エビリファイ、アリピプラゾールの名称で処方されています。錠剤、散剤、内用液、持続性注射剤などさまざまな形で用いられています。
保険適応(日本)
エビリファイ錠(およびOD錠3mg,6mg,9mg)・エビリファイ散・エビリファイ内用液は、「統合失調症」「双極性障害における躁症状の改善」「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」について保険適応が認められています。なお、エビリファイOD錠24mg、アリピプラゾール錠、エビリファイ持続性水懸筋注用は保険適応となる範囲がやや異なるため注意が必要です。
→添付文書(エビリファイ錠)
→添付文書(アリピプラゾール)
→添付文書(エビリファイ持続性水懸筋注用)
禁忌(日本)
・昏睡状態の患者
・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者
・アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
歴史
1987年に日本で合成された抗精神病薬です。臨床試験が1990年より開始され、統合失調症に対する有効性が確認されたことで、2006年にエビリファイ(錠剤・散剤)が承認されました。その後、双極Ⅰ型障害の躁病エピソードや混合性エピソードに対しても有効であることが認められ、2012年には躁症状の治療薬としても認められるようになりました。2013年には既存治療で十分な効果が認められないうつ病、2016年には小児の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性への処方も認められています。海外でも欧米を含めて70カ国以上で認められているお薬です。
作用メカニズム
アリピプラゾールはドーパミン受容体部分作動薬です。かなり大まかにいえば、「どのような環境でもドーパミン受容体をほどほどに刺激してくれる薬剤」という表現でもよいかと思います。。ドーパミンが過剰な環境では抑制剤として働き、ドーパミンが低下している場合は刺激剤として働きますので、結果としてドーパミンの強弱が中間的な位置に近づく、ということになります。中脳辺縁系のドーパミン過剰によってもたらされる幻覚妄想を抑制する一方で、遮断すれば副作用につながる、黒質線条体系・中脳皮質系・漏斗下垂体系のドーパミン活性に対しては抑制にも刺激にも働かないため、錐体外路症状や認知機能低下などの副作用が出現しづらいと考えられています。(もちろん、個人差はあります。)
また、セロトニン1A受容体(5-HT1A受容体)に対する部分作動薬でもあり、5-HT2A受容体に対する阻害薬でもあるため、抗不安作用も期待させます。さらに、副作用の原因となりやすい、ノルアドレナリン受容体(α1)・ヒスタミン受容体(H1)・ムスカリン受容体(M1)への阻害作用が弱い点は、治療薬としては有利な特徴といえます。
【参考:ドーパミン神経系】※専門家向け内容を含みます。
中脳辺縁系(A8、A10)
ドーパミン過剰になると幻覚や妄想などの陽性症状が出現します。
黒質線条体系(A9)
運動をつかさどります。たとえば、抗精神病薬によりドーパミンが抑えられるとパーキンソン症候群などの副作用が出現します。
中脳皮質系(A9,A10)
抗精神病薬によりドーパミン機能が抑えられると、認知機能低下につながります。
漏斗下垂体系:
抗精神病薬によりドーパミンが遮断されると、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)が上昇し、月経異常や乳汁分泌などの副作用が出現します。
海外における治療薬としての使用
統合失調症
日本と同様、欧米でも統合失調症の治療薬として認可されています。
双極性障害
アメリカ・イギリスでは双極1型障害による躁状態の治療または再発予防に用いられています。
大うつ病性障害
日本と同様、アメリカにおいても抗うつ剤との併用を前提に使用が認められています。
小児の自閉症における易刺激性
こちらも日本と同様、アメリカでの使用が認可されています。
主な副作用
(エビリファイ錠)
5%以上で認められる副作用は、アカシジア、振戦、流涎、不眠、神経過敏、不安、傾眠、体重増加、ALT上昇、CK上昇です。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と記載されています。なお、オーストラリア分類ではC、すなわち「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤。これらの作用は可逆的である場合がある」と説明されています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
消化管からほぼ完全に吸収されます。服用後3~4時間程度で血中濃度に達します。肝臓の薬物代謝酵素であるCYP2D6、CYP3A4により代謝されます。血中半減期は61~65時間です。
私が注目している海外の研究
「抗精神病薬により継続的に治療を受けていた統合失調症の患者は、薬物治療を受けていない統合失調症患者に比べて、心血管系の病気による死亡が少なかった」とする論文が、2021年、Schizophrenia research(オランダの医学誌)に報告されています。また、この論文では、4つの非定型抗精神病薬のデータも示されていますが、死亡リスク減少においてアリピプラゾールが優れていることも示唆されています。
「副作用はいやだし、できればお薬を飲みたくない」という気持ちはよく理解できますが、しっかりと服薬治療を行ったほうが、心疾患などによる死亡リスクを減らせる、と考えたほうが良さそうです。