第一世代抗精神病薬(ベンザミド系などその他)
第一世代抗精神病薬はフェノチアジン系やブチロフェノン系以外にも、ベンザミド系などいくつかの系統があります。それぞれのお薬に使い分けに特色があります。
以下のお薬が日本で処方されています。
ネモナプリド(エミレース)
スルトプリド(バルネチール)
ゾテピン(ロドピン)
ピモジド(オーラップ)
クロカプラミン(クロフェクトン)
モサプラミン(クレミン)
オキシペルチン(ホーリット)
チアプリド(グラマリール、チアプリド)
スルピリド(ドグマチール、アビリット、スルピリド)
※ ( )内は商品名です。クリックすると医療用医薬品の添付文書情報が開きます。
ネモナプリド
1978年に発見された極めて強いD2受容体遮断作用があるお薬が、このネモナプリドです。1982年から臨床試験が行われ、1991年以降、「エミレース」として承認されました。保険適応は「統合失調症」のみです。副作用の原因となる抗α1作用や抗コリン作用が弱いのは、起立性低血圧や便秘・口渇が出にくいという点で有利な性質といえます。「昏睡状態の患者、又はバルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者」「パーキンソン病又はレビー小体型認知症のある患者」は禁忌であり、使用不可となっています。
副作用
抗ドーパミン作用は、中脳辺縁系で発揮されれば幻覚妄想状態を抑制してくれますが、黒質線条体系(体の運動に関連するドーパミン神経系)に働けば、パーキンソン症候群など、副作用の原因になってしまいます。5%以上で見られる副作用は「パーキンソン症候群(振戦、筋強剛、流涎等)、ジスキネジア(舌のもつれ、言語障害、眼球回転、急性ジストニア、嚥下困難等)、アカシジア(静坐不能)」です。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、投与しないことが望ましい」「投与中は授乳しないことが望ましい」と記載されています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
食後に服用した場合、2~3時間で血中濃度がピークに達し、2.3~4.5時間で半減します。
スルトプリド
ベンザミド系の抗精神病薬であり、バルネチールという名称で用いられています。保険適応は「躁病、統合失調症の興奮及び幻覚・妄想状態」です。
禁忌は「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」「昏睡状態の患者」「バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者」「重症の心不全患者」「パーキンソン病又はレビー小体型認知症の患者」「脳障害(脳炎、脳腫瘍、頭部外傷後遺症等)の疑いのある患者」「プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)の患者」「QT延長を起こすことが知られている薬剤(イミプラミン、ピモジド等)を投与中の患者」などやや多岐にわたっており、この薬剤を用いる際は特段の慎重さを要します。
副作用
5%以上でみられる副作用は「パーキンソン症候群(振戦、筋強剛、流涎、寡動、歩行障害、仮面様顔貌等)、アカシジア(静坐不能)」です。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
医療用医薬品添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「授乳しないことが望ましい」と記載されています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
服用後、消化管から速やかに吸収され、1時間で最高血中濃度に達します。その後、薬理作用を持たないオキソスルトプリドに変化して尿中に排出されます。血中濃度は3時間で半減します。
ゾテピン
日本で開発された抗精神病薬であり、ロドピンの薬剤名で処方されています。統合失調症に対して保険適応が認められています。鎮静作用と抗躁作用が強いことが特徴です。
「昏睡状態、循環虚脱状態の患者[これらの状態を悪化させるおそれがある」「バルビツール酸誘導体、麻酔剤等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者」「アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)」「フェノチアジン系化合物及びその類似化合物に対し過敏症の既往歴のある患者」は禁忌とされており、使用できません。
チエピン系に属し、脳内のドーパミン2受容体のみならず、セロトニン2A、セロトニン6、セロトニン7受容体に対する遮断作用を持ちます。作用メカニズムの特徴が、クロザピンにやや似ており、海外では古典的抗精神病薬とはみなされない傾向があります。
副作用
5%以上で見られる副作用は、パーキンソン症候群(手指振戦、流涎、筋強剛、運動減少、歩行障害、膏顔、仮面様顔貌等)、眠気、脳波異常、血清尿酸低下です。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
医療用医薬品の添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい」「投与中は授乳しないことが望ましい」と記載されています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
服用後、消化管から吸収されます。血中濃度は2時間でピークとなり、14時間程度で半減します。
ピモジド
1960年代にベルギーで開発された抗精神病薬です。日本では「統合失調症」「小児の自閉性障害、精神遅滞に伴う症状(動き・情動・意欲・対人関係等にみられる異常行動、睡眠・食事・排泄・言語等にみられる病的症状、常同症等がみられる精神症状」に対する保険適応が認められました。ただし、禁忌項目・併用禁忌薬が多いため、使用には慎重さを要します。
副作用
5%以上で見られる副作用は、パーキンソン症候群(振戦、筋強剛、流涎等)、不眠、眠気、プロラクチン値の上昇です。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
医療用医薬品の添付文書には「妊婦、妊娠している可能性のある婦人及び授乳中の婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記されています。なお、オーストラリア分類ではC、すなわち「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤。これらの作用は可逆的である場合がある」とされています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
服用後の吸収は緩やかであり、血中濃度は服用8時間後に最大となり、53時間で半減するとのデータがあります。
クロカプラミン
日本で開発された抗精神病薬で、1973年に承認されました。統合失調症への保険適応が認められており、「クロフェクトン」の薬剤名で処方されています。「昏睡状態、循環虚脱状態の患者」「バルビツール酸誘導体・麻酔剤等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者」「アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)」「本剤の成分又はイミノジベンジル系化合物に対し過敏症の患者」では禁忌であり、使用できない点に注意が必要です。
副作用
5%以上で見られる副作用は、パーキンソン症候群(手指振戦,筋強剛,流涎等)、血液障害、不眠、,幻覚・妄想の顕在化、衝動性の増悪、体重増加、乳汁分泌などです。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい」とされています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
服用後、約3時間で血漿中濃度は最高に達し、約46時間で半減したとのデータがあります。
モサプラミン
日本で開発されたイミノベンジル系抗精神病薬です。1991年に承認され、統合失調症に対して保険適応が認められています。クレミンの薬剤名で処方されています。
ただし、「昏睡状態,循環虚脱状態の患者」「バルビツール酸誘導体・麻酔剤等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者」「アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)」「パーキンソン病又はレビー小体型認知症の患者」「本剤の成分又はイミノジベンジル系化合物に対し過敏症の患者」「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人」は禁忌であり、使用できません。
副作用
5%以上で見られる副作用は、パーキンソン症候群(振戦,筋強剛,流涎等)です。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと」「授乳中の婦人に投与する場合には授乳を中止させること」とされています。筆者は女性にはそもそも処方しないようこころがけています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
服用後、6~7時間で最高血中濃度に達し、15時間で半減したとするデータがあります。
オキシペルチン
1962年、アメリカで開発されました。日本では1972年にホーリットの薬剤名で用いられるようになりました。統合失調症に対して保険適応が認められています。
副作用
5%以上で見られる副作用は、手指振戦、アカシジア、不眠などです。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい」とされています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
服用後の最高血中濃度は3~5時間です。薬物動態についてのデータはあまり多くありません。
チアプリド
フランスのサノフィ株式会社が、ベンザミド系であるスルピリドを開発した後、新たに合成したのがチアプリドです。しかし、抗ドーパミン作用は持ちつつも、統合失調症の治療薬としては用いられていません。「脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄の改善」「特発性ジスキネジア及びパーキンソニズムに伴うジスキネジア」に対して保険適応が認められています。脳梗塞後遺症に伴う症状には投与3日後から、ジスキネジアに対しては投与1週後から改善が見られた、とする報告があります。
なお、「プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)の患者」には禁忌です。
副作用
項目別の副作用発現頻度が1%を超えたものは、傾眠(1.7%)、めまい・ふらつき(1.3%)です。筆者の経験的にも副作用は少ないお薬だと思います。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は授乳を避けさせること」と記載されています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
服用後すみやかに消化管で吸収され、血中濃度が2時間でピークに達し、6時間で半減します。血液中の濃度が定常状態に達するにはおよそ1週間を要します。
スルピリド
詳しくは、こちらの記事でご説明させていただきます。