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リスペリドン

リスペリドンは、幻覚や妄想を軽減させる第二世代抗精神病薬であり、セロトニン・ドーパミン遮断薬(sertonin dopamin antagonist、通称SDA)というグループに属します。古いタイプの抗精神病薬(第一世代抗精神病薬)と異なる点は、ドーパミン受容体だけではなく、セロトニン受容体も遮断することです。それにより、副作用である錐体外路症状をやわらげたり、統合失調症の陰性症状(自閉・感情鈍麻など)や認知機能低下を軽減することも期待されます。日本では、リスパダール、リスペリドンの薬剤名(商品名)で処方されています。

保険適応(日本)

リスペリドンは、「統合失調症」「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」に対して保険適応が認められています。

 

→添付文書(リスパダール

 

禁忌(日本)

・昏睡状態の患者

・バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者

・アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)

・本剤の成分及びパリペリドンに対し過敏症の既往歴のある患者

 

歴史

ドーパミン受容体を強力に遮断するタイプの抗精神病薬は、錐体外路系の副作用が生じやすい問題があります。しかし、セロトニン2受容体を遮断するお薬と併用することで、錐体外路系副作用が軽減されたり、陰性症状が減弱することが研究によって明らかになったことで、1984年、単一の化合物で2つの作用を持ち合わせたリスペリドンが合成されました。セロトニンとドーパミンを両方遮断することからセロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト(serotonin dopamine antagonist:SDA)と呼ばれています。日本では、1988年から臨床試験が開始され、1996年に治療薬として承認されました。

 

作用メカニズム

ドーパミン受容体D2受容体阻害作用と、セロトニン2受容体(5-HT2受容体)阻害作用をあわせ持ちます。中脳辺縁系のドーパミン過剰状態が陽性症状(幻覚や妄想)の原因ですが、D2受容体を遮断することでこれらの症状を軽減します。また、SDAの特徴であるセロトニン受容体の遮断は、黒質線条体系におけるドーパミン放出にブレーキを掛けるセロトニンの働きを弱め、ドーパミン放出を増やすことで錐体外路症状(薬剤性パーキンソン症候群など)を軽減します。また、中脳皮質系のドーパミン機能抑制は認知機能低下や陰性症状の悪化につながりますが、5-HT2受容体を遮断することで、これらが軽減する可能性もあります。

なお、リスペリドンは、代謝されると活性代謝物である9水酸化リスペリドン(パリペリドン)に変化しますが、パリペリドン(薬剤名インヴェガ)も統合失調症の治療に用いられています。

 

【参考:ドーパミン神経系】※専門家向け内容を含みます。

中脳辺縁系(A8、A10)

ドーパミン過剰になると幻覚や妄想などの陽性症状が出現します。

黒質線条体系(A9)

運動をつかさどります。たとえば、抗精神病薬によりドーパミンが抑えられるとパーキンソン症候群などの副作用が出現します。

中脳皮質系(A9,A10)

抗精神病薬によりドーパミン機能が抑えられると、認知機能低下につながります。

漏斗下垂体系:

抗精神病薬によりドーパミンが遮断されると、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)が上昇し、月経異常や乳汁分泌などの副作用が出現します。

 

 

海外における治療薬としての使用

 

統合失調症

日本だけではなく、欧米でも治療薬として認可されています。513例の慢性統合失調症患者に対するハロペリドール(第一世代抗精神病薬)との比較では、治療開始8週間後においてPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)でリスペリドンが優れていたとする報告があります。なお、副作用の錐体外路症状についても、リスペリドンのほうがハロペリドールよりも軽いとするデータがあります。再発予防効果については、服用開始後1年の再発率の比較において、ハロペリドール(60%)よりもリスペリドン(34%)が明らかに優れていたとする臨床研究があります。

 

双極性障害

欧米では躁状態に対する治療薬として認められています。

 

精神遅滞にともなう行為障害

イギリスでは、知的機能の低下がみられる5歳から青年における行為障害で、攻撃性が持続する場合、最大6週間を限度に使用が認められています。

 

中等度から重度のアルツハイマー型認知症における持続的な攻撃性

高齢者では錐体外路症状の副作用が出やすいため、日本ではあまり用いられませんが、

イギリスでは使用が認められています。ただし、非薬物療法が奏効しない自傷他害の恐れがあるケースで、かつ、6週までの短期限定使用が条件となっています。なお、アメリカでもアルツハイマー型認知症による興奮に対して用いられることがありますが、こちらは適用外使用です。

 

トゥレット症候群や外傷後ストレス障害

あくまでも適用外使用ですが、アメリカでは治療に用いられています。

 

主な副作用(リスパダール錠)

5%以上で認められる副作用は、食欲不振、不眠症、不安、アカシジア、振戦、構音障害、傾眠、めまい、ふらつき、流涎過多、便秘、悪心、嘔吐、筋固縮、月経障害、易刺激性、倦怠感、口渇が挙げられます。

 

副作用・安全性(海外)

リスパダールの投与量が増えるに従って、錐体外路系の副作用(パーキンソン症候群など)のスコアは上昇しますが、それでも、第一世代抗精神病薬のハロペリドールよりスコアは低いことが北米の臨床試験において示されています。また、遅発性ジスキネジアの発現率についても、リスペリドンのほうがハロペリドールよりも少ないとするデータがあります(ハロペリドール2.7%、リスペリドン0.6%)。高プロラクチン血症は、リスペリドンの量が増えると、プロラクチン濃度も上がることが明らかになっており、ハロペリドールと比較してむしろ高かったとする報告があります。また、高用量(12mg以上)では性機能障害(射精障害など)が増えるとのデータも存在します。

 

妊婦・産婦・授乳婦への投与

添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と記載されています。なお、オーストラリア分類ではC、すなわち「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤。これらの作用は可逆的である場合がある」と説明されています。

 

服用後の体内での動き(薬物動態)

服用後に消化管から吸収され、およそ1時間で最高血中濃度に達し、4時間で半減します。ただし、リスペリドンには抗精神病作用を持つ活性代謝物9-ハイドロキシリスペリドン(パリペリドン)が存在し、こちらは半減するまで21時間を要します。

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