ベンラファキシン
ベンラファキシンとは?
欧米では1990年代前半に、日本では2015年に発売された代表的なセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)です。服用開始早期の胃腸症状、動悸、頻脈、血圧上昇などが時折みられますが、不安症状にとどまらず、意欲低下にも効果を示します。
日本ではイフェクサーSRカプセルとして処方されています。
保険適応(日本)
イフェクサーSRカプセルは、「うつ病・うつ状態」の治療に対する使用が認められています。
→添付文書(イフェクサーSRカプセル)
※ ( )内は商品名です。クリックすると添付文書が開きます。
禁忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・モノアミン酸化酵素阻害剤を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者
・重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)
・重度の腎機能障害(糸球体ろ過量15mL/min未満)のある患者または透析中の患者
歴史
1980年代にアメリカで発見されたベンラファキシンは、1993年にニュージーランド、1994年にアメリカのFDA(食品医薬品局)により抗うつ薬として認可されました。日本でも、2015年12月以降、うつ病・うつ状態の治療薬(イフェクサーSRカプセル)として処方されています。
作用メカニズム
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:Serotonin-Noradrenaine Reuptake Inhibitor)に属します。神経細胞表面にあるセロトニントランスポーター、ノルアドレナリントランスポーター(=神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの回収システム)を阻害することで、シナプス(神経と神経の間)に存在するこれらの神経伝達物質を増加させます。ベンラファキシンは、少ない量ではセロトニン再取り込み阻害作用が優位ですが、150mg/日以上ではノルアドレナリン再取り込み作用が強まる、という二重作用(dual action)を持っています。
三環系抗うつ薬の副作用の原因である、α1受容体遮断作用・ヒスタミン受容体遮断作用(抗H1作用)・アセチルコリン受容体遮断作用(抗コリン作用)は弱いため、、副作用(起立性低血圧・眠気・便秘・口渇など)の頻度は、三環系抗うつ薬より少なめです。
海外における研究報告および治療薬としての使用
日本では「うつ病・うつ状態」への適応しか認められていませんが、欧米では、全般性不安障害(GAD)、パニック障害、社会不安障害(SAD)の治療薬としても認可されています。
うつ病
海外におけるプラセボとの比較試験において、ベンラファキシンがうつ症状や不安の軽減において優れていることが確認されており、日本のみならず欧米でもうつ病の治療薬として広く用いられています。複数の研究にて三環系抗うつ薬(イミプラミン、クロミプラミン、アミトリプチリンなど)と同等の効果が示されています。また、SSRIであるフルオキセチン(日本未承認)、セルトラリン、パロキセチンと同等もしくはより優れた効果を持つとの報告や、SARIであるトラゾドンよりも優れた抗うつ作用を持つとするデータもあります。他の抗うつ薬に比べて効果発現が早いとの研究結果も存在します。
双極性障害のうつ状態
双極Ⅱ型障害に対するベンラファキシンの有効性を評価した海外の研究があり、比較的早期(2週程度)で改善が見られたことに加え、軽躁状態やラピッドサイクラー化はみられなかったこともあわせて報告されています。また、気分安定薬をすでに服用している双極Ⅰ型障害に対してベンラファキシンとパロキセチン(SSRI)を追加した場合、両者の有効性・安全性は同等であったとする一方、別の研究ではベンラファキシン(13%)のほうがパロキセチン(3%)よりも躁状態になる割合がやや高かったとするものもあります。なお、日本の添付文書には、双極性障害に対してイフェクサーを用いると躁転などが起こりうるとの記載があり、あくまでも慎重な使用が求められます。
全般性不安障害(GAD)
欧米では複数の比較試験において、プラセボよりも優れていることが確認されており、GADの治療薬として認められています。用量について調べた研究もあり、1日量37.5mg、75mg、150mgすべてにおいて効果が見られたようです。
パニック障害
日本では保険適応となっておりませんが、海外のデータではパニック障害に対する有効性を示唆する研究が複数あり、欧米にて使用が認められています。
社会不安障害(SAD)
SADに対するベンラファキシンの短期効果・長期効果ともに確かめられており、パロキセチン(SSRI)と同等の効果があったとする報告があります。欧米では使用が認可されていますが、日本では保険適応が認められていません。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
海外ではありますが、ADHDにうつ病やうつ状態が合併した場合や、ADHDにアルコール依存を合併したケースで、ベンラファキシンが有効であったとする報告もあります。ただ、過活動が悪化したためベンラファキシンを中止せざるを得なかった症例も含まれています。
強迫性障害(OCD)
12週間の比較試験において、クロミプラミン(三環系抗うつ薬)と効果は同等であることが示されました。しかし、他のプラセボ対照二重盲検試験では8週間の試験終了時に、差がみられなかったとされています。日本・欧米ともにOCDに対する使用は認可されていません。
月経前不快気分障害
4回の月経サイクルを通じた二重盲検試験において、プラセボより優れていた、との報告もあります。
主な副作用(日本)
頻度が5%以上の副作用は、悪心(33.5%)、腹部不快感(腹痛、膨満、便秘等)(27.2%)、傾眠(26.9%)、浮動性めまい(24.4%)、口内乾燥(24.3%)、頭痛(19.3%)、不眠症(16.0%)、動悸(13.2%)、肝機能検査値異常(ALT・AST・γ-GTP・LDH・Al-P・血中ビリルビンの上昇等)(10.0%)、排尿困難、体重減少、発汗(寝汗等)、嘔吐、下痢、無力症(疲労、倦怠感等)などが挙げられます。
副作用・安全性(海外)
主な臨床試験にて10%以上の頻度で認められたものは、頭痛、不眠、眠気、口渇、めまい、便秘、脱力、発汗、神経過敏などです。また、高血圧(3%以上)や性機能障害についても報告されています。
急激な減薬・中止を行うと離脱症状が起こりうることが知られており、めまい、知覚障害、神経過敏、発汗、不安、焦燥、不眠などがみられることがあります。減量幅は1日量75mg以下、かつ、一つのステップに1週間以上かけなければなりません。それでも離脱症状が起こる場合は、減量ペースをより緩やかにする必要があります。
妊婦・産婦・授乳婦への投与
添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と記載されています。オーストラリア分類はB2、すなわち「限られた数の妊婦と出産可能年齢の女性に服用されており、ヒト胎児の奇形増加や、ヒト胎児に対する直接的および間接的な有害作用がみられない薬剤。動物研究においては、胎児の損傷が増えるという証拠は示されていないものの、データそのものが不十分である可能性がある」とされています。
服用後の体内での動き(薬物動態)
食物とともに内服した場合、吸収の速度は落ちますが、結果的に吸収される量は変わりません。吸収直後、まずは肝臓で代謝され、O-デスメチルベンラファキシン(ODV)に変化します。ODVは活性代謝物(=代謝された後、なんらかの活性を持つ生成物)であり、内服後、3時間で最高血中濃度に達します。このODVはベンラファキシンと等しい作用を持っています。ベンラファキシンの半減期は4時間で、ODVの半減期は10時間であり、服用を継続すると、3日から4日程度で平衡状態(=血液中の濃度が横ばいとなる状態)に到達します。肝機能障害や腎機能障害がみられる場合は、体外への排出能力が低下するため用量には注意が必要ですし、場合によっては禁忌となります。
他のお薬との相互作用
肝臓の薬物代謝酵素であるP450 2D6により代謝されます。なお、ベンラファキシンが2D6を阻害する作用はごくわずかです。