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フルボキサミン

フルボキサミンは、日本では、デプロメール、ルボックス、フルボキサミンマレイン酸などの薬剤名(商品名)で処方されている、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。

 

 

保険適応(日本)

「うつ病・うつ状態、強迫性障害、社会不安障害」に対して認められています。

→添付文書(デプロメール

 

禁忌

・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

・モノアミン酸化酵素阻害剤を投与中あるいは投与中止後2週間以内の患者

・ピモジド、チザニジン塩酸塩、ラメルテオンを投与中の患者

 

歴史と作用メカニズム

1971年にイギリスで開発され、抗うつ薬として実際に用いられたのは、1983年のスイスでした。臨床試験の結果も良好であり、副作用は三環系よりも少ないことが確認されました。うつ病のみならず、不安を主とする心の病気(強迫性障害、パニック障害、社会不安障害など)に対しても効果があったとする多数の報告があります。

 本来、神経と神経の間のすき間(シナプス間隙)に存在するセロトニンは、シナプス前終末から回収されて、シナプス間隙から姿を消すのですが、SSRIはセロトニンの回収を妨げることでシナプス間隙のセロトニン濃度を上げ、結果的にセロトニン活性を増強します。ノルアドレナリン系、ドーパミン系には作用せず、副作用に関連する他の受容体(α1、α2、β1、ドーパミンD2、ヒスタミンH1など)にも作用しません。結果として、心血管系の副作用、抗コリン作用による副作用、ドーパミン遮断によるパーキンソン症候群などが少ないことが特徴です。治療効果が現れるまで、うつ病で2週間から3週間、強迫性障害で3週間から4週間を要する、とされています。なぜ、服用直後ではなく、数週間という期間が必要なのか、まだ完全には解明されていません。実は、うつ病のメカニズム自体が解明されておらず、現在も様々な仮説が存在しています。(このあたりは、あらためて、他の記事でご説明いたします。)

 

海外における研究報告および治療薬としての使用

日本では、「うつ病・うつ状態、強迫性障害、社会不安障害」に対して保険適応が認められていますが、海外ではそれ以外の疾患に対しても応用されています。なお、アメリカでは、うつ病での適応は認められておらず、主に強迫性障害や社会恐怖の治療薬として用いられています。

 

うつ病

三環系抗うつ薬と同等の効果を持つことが示されていますが、血液中の濃度と治療効果に相関がみられなかったとの報告があるように、量を増やせば増やすほど効くというわけでもなさそうです。なお、他のSSRIと比較した臨床試験もありますが、同等の効果を持つとの結果が報告されています。

 

成人の強迫性障害(OCD)

アメリカでも、成人・青年期・小児期の強迫性障害に対して用いられており、10週間以上にわたり治療を継続した場合、クロミプラミン(三環系抗うつ薬、アメリカでは強迫性障害に対して認可されている)と同等の治療効果が得られることが確認されています。OCDについても、服薬継続により再発を予防できるとの結果が示されており、2年間服用を継続した場合と、6ヶ月で中断した場合、再発率は前者で33-44%、後者で85%であったことが示されています。ただし、中等量と高用量では再発率に差が見られなかったようですので、安定を維持するためには、中等量のフルボキサミンをきちんと継続する、というスタンスが良さそうです。

 

小児の強迫性障害(OCD)

幼少時にもOCDは存在し、長期化するとの報告は1980年代からなされています。臨床試験の結果、有効性が確認され、アメリカでは小児に対しても治療薬に対して認可されています。(注:日本も8歳以上で保険適応が認められています。)

 

社会不安障害(SAD)

アメリカでも治療薬としてFDAに認可されています。プラセボとの比較において、社会不安尺度(LSAS)が優位に低下することが示されており、第一選択薬として勧めている論文もあります。

 

パニック障害

フルボキサミンに限りませんが、SSRIはパニック障害の治療において第一選択薬として勧められています。完全寛解の後、4ヶ月から6ヶ月の期間をかけて漸減することが推奨されています。

 

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

日本では保険適応になっていませんが、海外では、米国の退役軍人のPTSDがフルボキサミンの3ヶ月間投与により、不眠、悪夢、恐怖、罪悪感などの項目において改善したという報告があります。また、民間人のPTSDにおいても、10週間のフルボキサミン投与にて、抑うつ症状や自律神経反応が軽減したとの調査研究があります。

 

過食症

精神療法で改善した過食症に対するフルボキサミンの再発予防効果が報告されています。

 

抜毛症

12週間のフルボキサミン内服で、21人中13人で部分的に奏効した、との報告があります。

 

ギャンブル依存

8週間のフルボキサミン内服で改善が見られたとする小規模試験の報告があります。

 

醜形恐怖

16週のフルボキサミン内服を行ったところ、30人中18人で改善がみられた、との報告があります。

 

主な副作用(日本)

5%以上に見られる副作用は、眠気、嘔気、悪心、口渇、便秘です。

 

副作用(海外)

海外では性機能障害の報告が多く、直接質問した場合は5割以上で認められた、との調査もあります。性機能障害の自発的訴えは1割~2割程度にとどまることから、調査の方法によって結果が変わりやすい副作用であることに注意が必要です。SSRIの急激な中止は、離脱症状(めまい、しびれなどの感覚異常など)をきたすことがあり、急激な減量・中止は避けなければなりません。半減期の短いものほど離脱症状の出現率が高く、最も多いのはパロキセチン(0.3/1000人)で、次いで、フルボキサミンとセルトラリン(0.03/1000人)に多いとされています。

 

妊婦・産婦・授乳婦への投与

添付文書には、「 妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、投与しないことが望ましい。また、投与中に妊娠が判明した場合は投与を中止することが望ましい」「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と記載されています。オーストラリア分類はC、すなわち「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤。これらの作用は可逆的である場合がある」とされています。

 

服用後の体内での動き(薬物動態)

服用後、消化管で吸収されて2~8時間程度で最高血中濃度に到達し、血液中の濃度が半分に低下するまでの時間(血中消失半減期)は15~19時間です。服用を継続して10日程度経過すると定常状態に達します。

 

他のお薬との相互作用

肝臓の薬物代謝酵素であるチトクローム酸化酵素1A2を強く阻害、2C19・3A4をある程度阻害、3A4をわずかに阻害します。1A2を阻害することで、本来は1A2で代謝されるはずの物質(カフェイン、三環系抗うつ薬、テオフィリン、ワーファリンなど)が体内から抜けにくくなります。3A4の阻害により、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、カルバマゼピンなども体内に残留しやすくなります。

 

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