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トラゾドン

トラゾドンは抗うつ薬の一種であり、日本ではレスリン・デジレル・トラゾドン塩酸塩の薬剤名(商品名)で知られています。1970年代にイタリアで合成され、1980年代にアメリカで治療薬として認可されました。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が登場して以降、使用機会こそ減っていますが、抗ヒスタミン作用による眠気を利用して、不眠が併存するうつ病・うつ状態で用いられています。(ベンゾジアゼピン受容体作動性睡眠薬で問題視される耐性・依存性が無いためです。)

保険適応(日本)

トラゾドンは、「うつ病・うつ状態」に対して保険適応が認められています。

→添付文書(レスリン

 

禁忌(日本)

・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

・サキナビルメシル酸塩を投与中の患者

 

歴史

SSRIには分類されていませんが、セロトニンに対して再取り込み阻害作用を持ちます。日本では1991年から用いられています。

 

作用メカニズム

分類上は、SARI(Serotonin2-Antagonist/Reuptake Inhibitor)と呼ばれています。

 

・セロトニンが働きかける部位である5-HT2受容体を遮断する作用

・セロトニン再取り込み阻害作用によりセロトニン神経系を活性化させる作用

 

という、「一見すると相反する2つの作用の総和」がトラゾドンの作用です。作用メカニズムを直感的に理解するのは難しいお薬といえます。

 また、抗うつ作用とは関係しませんが、アドレナリン受容体(α1)、ヒスタミン受容体(H1)の遮断作用も持っています。α1受容体の遮断は起立性低血圧を引き起こし、H1受容体の遮断は眠気を引き起こします。普通に考えればこの眠気は「副作用」なのですが、うまく利用すれば不眠を改善するための「効果」にもなります。実際の診療では、「睡眠薬を使わずに不眠を改善したいときに使う依存性がないお薬」というポジションです。

 

海外における研究報告および治療薬としての使用

 

うつ病

三環系抗うつ薬と治療効果が同等であり、三環系抗うつ薬よりも副作用が少なく、不安を軽減する作用も持ち合わせているとする見解や、抗ヒスタミン作用による眠気を持つことから、うつ病患者の不眠に対して有効とする報告があります。しかし、重症のうつ病や制止症状(思考や行動がゆっくりになってしまう症状)が目立つ場合は治療効果に乏しい、とする報告や、中等症から重症の入院例を対象とした臨床試験において、ミルタザピンよりも症状改善度は低かった、とする臨床試験も存在します。高齢者のうつ病治療においてトラゾドンを用いる場合、α1遮断作用による起立性低血圧から転倒が起こるリスクには注意を要しますが、不眠や興奮が強い老人性のうつ病には適した薬剤である、との意見もあり、状況による使い分けが必要となります。

 

不眠症

耐性・依存性が問題となるベンゾジアゼピン系睡眠薬ではなく、不眠症に対してトラゾドンを用いる医師は、日本および海外でも少なくありません。PTSDにともなう不眠にトラゾドンを用いたところ、9割以上で入眠が改善し、その後も8割の患者において良好な睡眠が維持されたとする研究報告があります。ただ、十分な効果が得られるための必要量は個人差が大きく、25mgから200mgと幅があります。

 

全般性不安障害(GAD)

トラゾドンは抗うつ作用のみならず抗不安作用を持っていると考えられています。GADに対する症状軽減効果が抗不安薬であるジアゼパムと同等であるとの報告があります。

 

神経性大食症

プラセボとの対照試験がいくつかあり、過食や嘔吐が出現する回数をトラゾドンが減少させたという報告があります。

 

認知症に伴う興奮

アルツハイマー型認知症での興奮を抑えるために、やむなく抗精神病薬であるハロペリドールを用いた時代がありますが、薬剤性パーキンソン症候群などが起きやすいことから、現在はあまり用いられません。トラゾドンはハロペリドールと効果が同等であり、副作用はハロペリドールよりも少ないとする報告があります。(日本で用いる場合は保険適応ではなく、あくまでも適応外使用となります。)

 

強迫性障害(OCD)

OCDに対してトラゾドンが有効であったとする報告もありますが、その後の臨床試験においてプラセボとの差がみられなかった、とする結果が示されています。

 

せん妄状態

5-HT2A受容体に対する遮断作用が、せん妄状態の改善を促すことが知られていますが、起立性低血圧、翌朝への持ち越しが起こりうるため。少量(25mg以下)から開始するほうが安全です。

 

 

主な副作用(日本)

眠気(4.3%)、めまい(3.6%)、口渇(2.9%)、便秘(1.8%)が比較的多く見られた、とのデータがあります。また、日本国内の添付文書では頻度不明とされていますが、起立性低血圧や性機能障害などが起こる場合があり、念のため注意が必要です。

 

副作用・安全性(海外)

抗コリン作用がなく、前立腺肥大や便秘を合併する場合にも服用が可能ですが、鎮静作用が起こりやすく、制止症状や意欲低下がある場合は使いにくいとされています。

 α1遮断作用による起立性低血圧の副作用が起こりえますが、三環系抗うつ薬と比べると頻度は少なかったとする報告があります。男性の6000人に1人の割合で持続性勃起症(性機能障害の一種)が報告されており、まれな副作用とはいえ注意が必要です。

 トラゾドンによる躁転は双極性障害に限らず、単極性うつ病でもみられることがありますが、躁転する場合、SSRIよりも短時間で現れることが示唆されています。

 

妊婦・産婦・授乳婦への投与

添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」「授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが、やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること」と記載されています。

 

服用後の体内での動き(薬物動態)

内服後は速やかに吸収され、1~2時間後に血中濃度は最大に達します。トラゾドンそのものの半減期は3~9時間であり、個人差による幅があることに留意する必要があります。なお、肝臓で代謝された際に活性代謝物であるm-CPP(半減期は4~14時間)が作られますが、m-CPPの体内濃度は無視できる程度に低いと考えられています。肝臓の薬物代謝酵素(P450 2D6および3A4)による代謝を受けますので、2D6や3A4の働きを抑制する薬剤と併用する場合は注意が必要です。

 

他のお薬との相互作用

トラゾドンは、薬物代謝酵素(P450 2D6および3A4)にて代謝されます。そのため、2D6や3A4を抑制する薬剤と併用した場合、トラゾドンの血中濃度が上昇することもあり、併用禁忌に指定されているお薬(インビラーゼ;サキナビルメシル酸塩)もあります。また、アルコールと併用した場合、眠気や鎮静作用が強まる可能性があり、こちらも注意が必要です。

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