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うつ病・うつ状態

私たちのこころは日常の暮らしの中でさまざまに揺れ動きますが、その一方で、極端な状態に傾かないよう調節する力も備えています。しかし、許容限度を超えるストレスや困難が何度も降りかかれば、調節機能が耐えられなくなることもあります。うつ病は、気分の落ち込みや意欲・興味の喪失に加えて、思考力低下、気力の減退、食欲の異常(低下や増加)、睡眠障害(不眠や過眠)、自己評価の低下などが重なる、とても苦しい心の病です。自殺への思いにとらわれたり、実際に行動に移してしまう場合もありますので、早期発見・早期治療がとても大切です。

 

頻度

1970年以前でのデータでは、一般人口における発生率は0.5%程度とする調査が多かったのですが、この時代は診断基準そのものが定まっておらず、軽症や中等症は含まれていなかった可能性もあります。その後の調査では有病率が1~5%とするものが多く、1980年頃のWHOの調査でも、世界の人口の約3%がうつ病を患っていると報告されており、おおむね矛盾しない結果になっています。男女比はおよそ1:2ですが、双極性障害に限定すれば2:3と性差が小さくなります。初発年齢は20代が多く、次いで30代が多いといわれていますが、40代以降に初めて罹患することも少なくありません。私の感覚に限って言えば、診療の現場で年齢層による出現率の差を感じることはありません。どの年代にもそれぞれの悩みがあり、どの世代にもまんべんなくみられるのが現代のうつ病の特徴と感じています。生涯有病率(一生のうちで一度以上、その病気にかかる率)は、女性では10~25%であり、男性のおよそ2倍といわれています。女性の4人から10人に1人は、少なくとも一度はうつ病を経験するということになりますので、決して珍しい病ではないことがわかります。

 

病前性格

 

テレンバッハのメランコリー親和型性格

仕事や社会生活において、几帳面、正確、勤勉、良心的、責任感が強いといった傾向を持ち、対人関係では、他人との摩擦を避け、他者のために行動し、時には過度の良心を示します。秩序を重んじる一方で柔軟性にはやや乏しいのも特徴です。転職、退職、昇進、出産、身体の病気、近親者の死亡などのライフイベントにより、それまでの日常生活の秩序を維持できなくなった際に、うつ状態へ傾きやすいと考えられています。

 

発病に関係する誘因

近親者や友人の死亡、友人関係の破綻、健康問題、結婚、別居、離婚、妊娠、出産、流早産、更年期、経済的困窮、過重労働、転居、失職、退職、定年、事故、急激な負担軽減(いわゆる荷下ろし)など、原因として疑われる要因がみられる割合は7割程度です。裏を返せば、心当たりとなる要因がないまま発病する割合も3割にのぼります。最近ではウイルス説(ヒトヘルペスウイルスなど)も提唱しており、今後の研究の進展が期待されます。

 

うつ病のメカニズム

うつ病を含め、感情障害のメカニズムはまだ確定していません。モノアミン欠乏仮説、受容体機能亢進仮説、2次メッセンジャー不均衡仮説、G蛋白インバランス仮説

、神経可塑性仮説、ストレス不適応仮説、学習性無力仮説など、実にさまざまな仮説が提唱されています。

 

モノアミン欠乏仮説

精神の機能をつかさどっている神経伝達物質、すなわちモノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)が枯渇することでうつ病が発病するという考え方です。抗うつ薬はこれらのモノアミンを活性化することで抗うつ効果を発揮することがわかっており、直感的に最も理解しやすい仮説です。この仮説の弱点は、脳内のモノアミンが活性化されてからうつ状態が改善するまでに生じる数週間の時間の遅れを説明できないことです。とはいえ、有力な仮説であることには疑いがありません。

 

受容体機能亢進仮説

抗うつ薬により脳内のモノアミンが活性化されても、抗うつ効果が現れるまで数週間のタイムラグが生じます。この現象を説明するうえで、しばしばこの仮説が引き合いに出されます。死後脳の研究から、うつ病では神経伝達物質の受容体(神経伝達物質が結合して作用する部位)が増加していると推定されていますが、抗うつ薬によるモノアミン活性化を数週間続けることで受容体が減少し、うつ状態が軽減するという考え方です。

 

2次メッセンジャー不均衡仮説

脳内の神経伝達物質は近くにある神経細胞の受容体に結合し、その信号が細胞内に伝わって、神経伝達物質としての機能を発揮します。しかし、細胞内でのシグナルがうまく伝わらなかったり、シグナルが偏った状態になると不具合を起こします。具体的には、ホスホリパーゼC系がアデニル酸シクラーゼ系よりも優位な状態のままバランスが崩れることで、うつ状態が生じるとする仮説です。このあたりは専門的なお話になりますので、精神科医向けの別の記事でご説明します。

 

ストレス不適応仮説

ストレスが高まると、視床下部~下垂体~副腎皮質系(HPA系)、青斑核~ノルアドレナリン系(LC-NE系)が活性化されますが、この活性化が過剰になったり長引いたりすると心身の疲弊につながり、最終的にはエネルギーが枯渇した状態になります。そうならないために、副腎皮質ホルモンが2つの系統にブレーキをかけており、ストレス反応レベルを適切にコントロールしています。このブレーキが破綻した状態がうつ病である、という仮説です。

 

学習性無力仮説

長期間にわたって回避できないストレスを浴び続けると、「環境に対して自分は完全に無力」であると「学習」してしまうため、意欲低下や感情面での異常が生じるという仮説です。しかし、これといったストレス要因がない状況でもうつ病が発病することはあり、この仮説では説明がつかない部分もあります。

個人的には、長引く過重労働など仕事のストレスに反応して起こるうつ状態は、この仮説がよく当てはまる印象を持っています。また、こういったタイプのうつ病には抗うつ薬が効きにくいとの印象を持っていますが、無気力感を取り除くような働きかけ(例:不得意な業務から得意な業務に就けるような配置転換など)を行うことで、急速に改善したケースも経験しています。モノアミンが欠乏している「うつ病」もあれば、そうではない「うつ病」もあると思います。困ったことに診断基準においてはどちらも同じ「うつ病」と扱われるのですが、やみくもに抗うつ薬を処方をするのではなく、両者の違いをしっかりと見抜ける能力を精神科医は求められている、と感じています。

 

症状と診断基準

 

診断基準

アメリカ精神医学会などの診断基準(DSM-5)では、以下のような内容で示されています。

 

<うつ病>

 

以下の症状のうち5項目以上が、同じ2週間の間に存在し、症状が出現する前に比べて、生活機能が低下している。うつ病の診断のためには、少なくとも一つは 1.または2.を含む必要がある。

 

1.悲しかったり虚しかったり絶望感にさいなまれたり、涙を流していたりするような抑うつ気分が、ほとんど1日中、ほとんど毎日みられる。なお、子供や青年では、怒りっぽい気分になることもある

 

2.ほぼ1日中、ほとんど毎日、全てもしくはほとんどの活動に対する興味や喜びが著しく低下している

 

3.ダイエットなどの食事制限をしていないにもかかわらず、1か月で5%以上の体重減少が起こるような食欲低下。あるいは、1か月で5%以上の体重増加が起こるような食欲亢進

 

4.ほぼ毎日の不眠や過眠

 

5.ほぼ毎日にわたる焦燥や制止症状(※)

 

6.ほぼ毎日の疲れやすさや気力低下

 

7.ほぼ毎日、自分に価値がないように感じたり、不適切かつ過剰に自分を責める

 

8.思考力や集中力の低下。あるいは決断力の低下がほぼ毎日にわたって認められる

 

9.自殺について繰り返し考える

 

なお、これらの症状による苦痛が社会生活能力を低下させていて、これらの症状がなんらかの物質の作用や病気によるものではない、ということが診断のための条件となります。

 

※制止症状(psychomotor inhibition)は抑制症状とも呼ばれ、思考のテンポが遅くなったり、返答や話し方がゆっくりになったり、生気が感じられないような低い声になったり、といった状態を指します。

 

<微小妄想の三大主題>

重症のうつ病には妄想が伴うことがあり、微小妄想と呼ばれています。医学的な「妄想」とは、「病的に作られた誤った不合理な思考内容や判断で、根拠がないのに強く確信され、論理的に説得しても訂正不能なもの」のことです。

 

罪業妄想

全ての失敗を自分のせいだと思い込んだり、自分の存在が周囲の人にとって迷惑である、と思い込む妄想です。

 

貧困妄想

経済的な問題は起きていない、あるいは、起きそうにない状況にもかかわらず、「すべての財産を失ってしまい、家族も私も路頭に迷うしかない」などと思い込むような妄想のことです。

 

心気妄想

検査を受けて異常がないにもかかわらず、「自分は重い病気にかかって先は長くない。もう助からない」などと思い込んでしまう妄想です。

 

いろいろなうつ病

 

メランコリー親和型うつ病(古典的うつ病)

あまり聞きなれない用語ですが、基本的かつ古典的なタイプのうつ病です。少なくとも従来はこちらが主流でした。几帳面であり、何事にも勤勉に取り組み、責任感も強く、何か問題が起こればその原因を自分に求めます。他者配慮や秩序を重んじる性格傾向(メランコリー親和型性格)の方が、無理に無理を重ねて自分を追い込んだ結果、うつ病を患ってしまう、と考えられてきたタイプがこちらです。重症化した際に自責感から自殺に及ぶこともあり、休養と治療をしっかり行うことが必要です。抗うつ薬などのお薬が効きやすい、とされています。

 

新型うつ病

近年増加しているとされる、古典的うつ病とは対極に位置します。几帳面ではなく、仕事に対してもあまり熱心ではありません。責任感よりは自分のペースを守ることを優先する傾向にあります。何か問題が起こった際も、自分よりは他者に原因を求めるなど他罰的傾向がみられます。休養と薬物療法のみでは慢性化しやすいのも特徴といえます。

 

非定型うつ病

うつ状態が続いている時期においても、楽しい出来事には反応して気分が明るくなり、かつ、以下の4項目のうち、2つ以上を満たす場合は、非定型の特徴を伴ううつ病として位置づけられます。

 

・1か月に5%以上の体重増加を伴うような食欲亢進

・過眠(夜間や昼寝が合計で10時間以上、あるいは、抑うつがみられない時期より睡眠が2時間以上長い状態)

・手足が重くて鉛のように感じる感覚(鉛様麻痺)

・対人関係で拒絶されることに過敏。(必ずしも、うつ病の時期に限定されない)

 

新型うつ病の一部として述べられる場合もありますが、DSM-Vでは「非定型の特徴を伴う」の独立した項目として扱われていますので、ここでは分けて記載します。

 

仮面うつ病

精神症状が目立たず、身体症状が前面に現れるタイプのうつ病です。「身体症状という仮面をかぶっているが、実はうつ病」であるため、仮面うつ病と呼ばれています。最初は内科を受診する方が多く、血液検査・心電図・レントゲンなどさまざまな検査を行っても何も異常が見つからず、心療内科にご紹介をいただくパターンが多いです。

 

初老期うつ病

40代から50代で初めて発病した場合、初老期うつ病と呼ぶことがあります。病前性格は、メランコリー親和型性格が多く、精神不安や心気症状(「自分は重い体の病気にかかっているのでは」と健康に不安をいだく症状)がみられる一方で制止症状は目立ちません。微小妄想を呈しやすく、病状が長引くこともあります。

 

産後うつ病

分娩後8週までの産褥期はうつ病を発症しやすいことが知られており、時に、産後1週間以内に起こることもあります。重症化すると自殺や無理心中につながる恐れもあるため、注意が必要です。

 

昇進うつ病

本来は喜ばしいはずの昇進ですが、責任感が強いメランコリー親和型性格の方が管理職になった場合、「完璧にこなさなければならない」といった具合に感じる重圧も大きくなります。昇進前のパターン化された業務をこなす生活とは異なり、情報の取捨選択と決断、営業成績などの数値的目標、部下のマネージメントとケアなど業務の幅が広がってしまい、几帳面ではあるが柔軟性にやや欠ける性格傾向から、変化に対応できなくなる場合があります。昇進うつ病は、まさにこういった状況で起こりやすくなります。

 

引っ越しうつ病

自分のキャパシティー以上に無理をして周囲に過剰適応しようと頑張り、それが原因となってうつ病を発症することがあります。他者への配慮が強く完璧主義の主婦が、転居後にこの状態に陥ることがあり、引っ越しうつ病と呼ばれることがあります。

 

荷下ろしうつ病

長らく悩んできた問題(長期にわたって続く多忙な仕事、多額の借金返済、家族の健康問題や介護など)から、心理的に解放された直後に起こりやすいうつ病です。最近では、新型コロナの長期自粛明けにこの状態に陥る方もいらっしゃいます。ストレスや悩みの種がなくなったのにどうして?と疑問に思う方もいらっしゃると思いますが、緊張からの急激な弛緩には注意が必要です。

 

空の巣症候群

夫は仕事が忙しくてあまり家にはいない中、子育てが終わって子供たちが巣立つ。このように、家庭が「空の巣」になってしまった寂しさや空虚感から、うつ病を発病することがあり、空の巣症候群と呼ばれることがあります。

 

燃え尽き症候群

おもに対人関係に従事する職業の方々が、善意と自己犠牲からエネルギーを使い果たすまで仕事に打ち込み、その結果、うつ病を発症してしまった場合を指します。特に、善意からの努力が評価されず、逆に非難を受けた場合では、燃え尽き症候群に陥るリスクが高まると感じています。

 

治療

 

抗うつ薬

日本には20種類以上の抗うつ薬がありますが、いくつかのグループに分けられます。

 

三環系抗うつ薬

 

四環系抗うつ薬

 

・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

 (セルトラリンフルボキサミンエスシタロプラムパロキセチン

 

・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

 (デュロキセチンベンラファキシンミルナシプラン

 

・ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)

 (ミルタザピン

 

・セロトニン遮断再取り込み阻害薬(SARI)

 (トラゾドン

 

・ドーパミン受容体拮抗薬

 (スルピリド

 

・セロトニン再取り込み阻害・ セロトニン受容体調節剤

 (ボルチオキセチン

 

 

認知療法

「認知」の意味についてはさまざまな説明がなされています。「現実に起こっていることに対してどのようなとらえ方をするか」を「認知」と考えてもよいと思います。認知によって、それに応じた感情が生まれます。ポジティブに認知すればポジティブな感情が生まれ、ネガティブに認知すればネガティブな感情が生まれます。ネガティブな認知の典型的なパターンを「認知の歪み」といいます。この認知の歪みに気づき、ポジティブなとらえかた(適応思考)につなげてゆくのが認知療法です。

 

~認知の歪みの10パターン~

 

全か無か思考

一般化のしすぎ

心のフィルター

マイナス化思考

結論の飛躍

拡大解釈と過小評価

感情的決めつけ

すべき思考

レッテル貼り

個人化

 

ご家族のかかわり方

 

「早く元気になってほしい。」

「以前のように明るい笑顔に戻ってほしい。」

ご家族ですから、そういった思いが湧きあがるのも当然です。でも、前進と揺り戻しを繰り返しながら徐々に改善に向かうのがうつ病です。たとえ病状が長引くことがあっても一喜一憂せず、ご本人さまを責めたりすることはなさらぬよう、待つ姿勢を心がけてください。一番つらいのはご本人であることを忘れず、愛情を持って見守りましょう。不安なことは主治医に遠慮なくご相談ください。

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