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統合失調症

統合失調症の歴史・疫学

2002年までの日本では精神分裂病と呼ばれていましたが、その後、統合失調症に変更となりました。アメリカでは人口の約1%に発症。日本の過去の調査でも、発症率は0.7%前後との結果が出ており、大きな相違はありません。

 

主な症状

陽性症状

「無いはずのものがある(陽性)」ことを指します。たとえば、

・幻覚(悪口や命令の幻聴が多い)

・妄想(ありえないことを信じてしまい、周囲が説明しても訂正できない)

・自我障害(自分と外界との境目がわからなくなり、操られている感覚に陥る)

 

陰性症状

「あるはずのものが無い(陰性)」症状のことです。

・意欲低下、感情の平板化、注意力低下

 

中間症状

「思考の連続性に欠ける状態」

中間症状の強さの順に並べると以下のとおりになります。

言葉のサラダでは脈絡のない単語が次々と発せられます。

連合弛緩<滅裂言語<言葉のサラダ(話がまとまらず、支離滅裂になる)

 

ブロイラーの基本症状(ブロイラーの4A)

統合失調症の経過中に必ず出現する基本的な症状として、ブロイラーが挙げた以下の4つの症状のことです。

1)連合弛緩: 思考のまとまりのなさ

2)感情障害: 喜怒哀楽の感情が鈍かったり、逆に敏感すぎること

3)自閉: 外界との接触を避け、殻に閉じこもる傾向

4)両価性: 同一の対象に、相反する感情を同時に抱くこと

 

シュナイダーの一級症状

統合失調症と診断するうえで重要と考えられる自覚症状を、ドイツの精神医学者であるシュナイダー(1887-1967)が提唱しました。以下の8つであり、陽性症状に含まれます。

 

1)考想化声(=自分の考えが聞こえるという特殊な形の幻聴)

2)話しかけと応答の形の幻聴

3)自己の行為に随伴し口出しする形の幻聴

4)身体への影響体験

5)思考奪取やそのほか思考領域での影響体験(=考えを抜き取られたり、操られる)

6)考想伝播(=自分の考えが、他人に伝わってしまう)

7)妄想知覚(=知覚した現象に対する異様な意味づけ)

8)感情や意思の領域に現れる影響体験(させられ体験)

 

前駆期(神経衰弱様状態期)が現れることも

統合失調症の発病初期にみられる、抑うつ気分、思考力低下、倦怠感、不眠、不活発など、見かけ上、うつ病・うつ状態と変わらない時期のことを指します。学校や職場を休みがちになりますが、これといった理由が見当たらないことが少なくありません。この時期は、統合失調症に特有の幻覚・妄想はみられませんので、この時点で統合失調症の前駆期と診断することは困難です。たとえば、うつ病や神経症と診断され、数年後に幻覚や妄想が出現することで、「実は(うつ病でも神経症でもなく)統合失調症の前駆期であった」と後になって判明する場合も少なくありません。

 

経過と予後

治癒例の比率は、どの時代においても25~30%程度とする調査報告が多いといわれています。慢性期に移行するに従い、無関心や自発性減少(すなわち陰性症状)の程度が強まる傾向があります。統合失調症の経過で最も重要なのは、シュープと呼ばれる症状再燃期で、精神的ストレスや身体疾患が引き金となることがあります。薬物療法だけではなく、生活技能訓練や生活指導を行うことで、シュープの確率を下げることができます。抗精神病薬を主体とした薬物療法はこの20年で確実に進歩していますが、入院していた患者さんが退院後のストレスで再入院を繰り返すケースもまだまだ多く、以前は「回転ドア現象」(=入退院を頻繁に繰り返すこと)とも形容されていました。薬物療法はもちろん大切ですが、それだけで十分ではありません。社会資源も積極的に利用しつつ、総合的なサポートを行う必要があります。

 

いくつかのタイプ

破瓜型(解体型)

思春期から20代前半にかけて発症します。幻覚、妄想などの陽性症状も存在しつつ、自閉、無為、無関心、無口となり、他人との接触を避けるようになります。生活も不規則になりやすく、学業成績や作業能力の低下が見られます

 

緊張型

20代で発症。昏迷(=意識ははっきりしているのに、自発的な発語や行動がみられず、周囲からの刺激にも反応しない状態)と、緊張病性興奮(=急激に起こる幻覚・妄想により、精神的に高ぶる状態)を繰り返す。反響動作(=相手の行動を模倣したり、言葉をオウム返しする)もこのタイプに特徴的です。

 

妄想型

30代で発症することが多く、幻覚や妄想はみられるものの、感情鈍麻(=喜怒哀楽が乏しくなること)や滅裂思考(=思考のまとまりが無くなり支離滅裂な言動を示す状態)はあまり目立ちません。そのため、意思疎通は比較的保たれます。

 

単純型

自閉傾向、意欲低下、思考のまとまりの無さなどの陰性症状・中間症状が主要な症状となり、陽性症状(幻覚、妄想など)に乏しいタイプです。20歳前後に発病し緩徐に進行しますが、人格の荒廃に至ることは少ないと考えられています。軽症例では、家族が病気に気づかないことすらあります。

 

診断基準

DSM-V(アメリカ精神医学会の診断基準)が広く用いられています。

以下の1)~5)うち2つ以上を認め、かつ、それぞれが1か月間にわたり存在する。なお、少なくなくとも一つは(1)(2)(3)のいずれかでなければならない。

 

1)妄想

2)幻覚

3)まとまりのない会話

4)まとまりに欠ける行動や、緊張病性の行動

5)陰性症状

 

・仕事、対人関係、自己管理などの能力レベルが、症状出現前に比べて著しく低下していること

・統合失調感情障害や、精神病性の特徴を伴う気分障害が、診断として除外されていること

・自閉症スペクトラム障害などの病歴がある場合、幻覚・妄想が少なくとも1か月続く必要がある。

 

ドーパミン仮説

脳内のドーパミン神経系のうち、主に以下の4系統が、統合失調症の症状に関係していると推測されています。ドーパミンが鍵を握ることは疑いがなく、有力な仮説と考えられています。

 

1)中脳辺縁系ドーパミン経路

脳幹部の中脳から側坐核にかけてのドーパミン神経系の過活動が、幻覚妄想状態の原因と考えられています。この部分でのドーパミン受容体を遮断することが、抗精神病薬(≒ドーパミン受容体阻害薬)を用いる目的です。

 

2)黒質線条体ドーパミン経路

黒質線条体のドーパミンは運動機能調節にも深く関与していています。中脳辺縁系のみでドーパミン受容体を抑制できればよいのですが、残念ながら、黒質線条体ドーパミン経路も抑制してしまいます。その結果、パーキンソン病と似た症状(=錐体外路症状)を引き起こすことがあり、抗精神病薬の副作用の最大の原因になっています。いわゆる遅発性ジスキネジアも、長期のドーパミン遮断による受容体のup-regulation(代償性の増加)が原因といわれています。

 

3)中脳皮質ドーパミン経路

大脳皮質は、認知機能にとって重要な領域です。そのため、皮質へ向けたドーパミン経路を遮断すると認知機能低下することがあります。また、抗精神病薬が陰性症状に似た状態を引き起こすことがありますが、おそらくは、この経路のドーパミン抑制が関与しています。

 

4)漏斗下垂体ドーパミン経路

この経路のドーパミン遮断は、乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンの上昇を招き、乳汁漏出の副作用を起こすことがあります。

 

上記のうち、1)のドーパミン遮断は治療において中心的な役割を果たしますが、2)3)4)の遮断は副作用を招くため、好ましくありません。

 

治療

薬物療法

ドーパミン神経系の過活動が統合失調症の原因である、との仮定に基づき、抗精神病薬(ドーパミン受容体を遮断するお薬)の内服・注射等が用いられます。薬物療法が対症療法に過ぎないとしても、現在の医学において脳内のドーパミン機能を抑制する現実的な手段はこれしかなく、治療の中心を担っています。

 

<定型抗精神病薬>

 

フェノチアジン系

H1受容体遮断作用による鎮静作用、抗コリン作用(便秘、口渇)、抗α1作用(起立性低血圧)による副作用があります。クロルプロマジン(商品名:コントミン)、レボメプロマジン(商品名:レボトミン)、ペルフェナジン(商品名:ピーゼットシー)など

 

ブチロフェノン系

ドーパミン受容体の遮断作用が強く、副作用の錐体外路症状に注意が必要。ハロペリドール、ブロムペリドールなど

 

ベンズアミド系

幻覚・妄想状態の軽減作用が期待できるが、副作用としての錐体外路症状はしばしば経験する。スルピリド(商品名:ドグマチール)、ネモナプリド(商品名:エミレース)など。

 

<非定型抗精神病薬>

 

セロトニン・ドーパミンアンタゴニスト(SDA)

リスペリドン(商品名:リスパダール)、パリペリドン(商品名:インヴェガ)、ペロスピロン(商品名:ルーラン)、ブロナンセリン(商品名:ロナセン)など。それぞれに特色があるが、セロトニン受容体の遮断により、ドーパミン神経系の抑制が解けるため、錐体外路症状が出にくい、とされている。(クエチアピンは、ジベンゾチアゼピン系に属し、他のSDAとはやや異なるお薬です。耐糖能障害と体重増加が問題となるため、糖尿病がある場合は、服用を避けます。)

 

多元受容体作用抗精神病薬(Mult-Acting-Receptor-Targeted Antipsychotics;MARTA)

日本では、オランザピン(商品名:ジプレキサ)クエチアピン(商品名:セロクエル)、アセナピン(商品名:シクレスト)などが用いられている。オランザピンやクエチアピンは、血糖値上昇や体重増加の副作用に注意する必要があり、糖尿病の方は服用を避ける必要があります。

 

ドーパミン受容体部分作動薬

アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)が代表的です。部分作動薬とは「どんな状況でも、ほどよく刺激する薬」とイメージして下さい。たとえば、統合失調症のようなドーパミンが過剰な状況では、相対的にドーパミン神経を抑制します。逆に、うつ病のようなドーパミンが低下した状況では、ドーパミン神経系を刺激する薬として作用します。こちらも、体重増加と血糖値上昇に注意が必要であり、糖尿病の方は慎重な使用が求められます。

 

クロザピン(商品名:クロザリル)

作用機序の詳細はいまだ不明です。他の抗精神病薬で効果が得られなかった場合でも、劇的に奏効することがあります。しかし、遅発性ジスキネジアなど錐体外路系副作用が生じない反面、顆粒球減少症危険がありえます。発売直後の半年間、北欧において16名の顆粒球減少症が起こり、そのうち8名が亡くなったことで、各国での販売も一時中止となっていた経緯があります。そのため、使用開始にあたっては厳重な管理(クロザリル患者モニタリングサービス)に基づいた使用が必須です。

 

生活療法

スポーツ、趣味、ゲームなどのレクリエーションや作業療法、生活指導などにより、社会生活能力の向上を図り、退院後の社会復帰に備える意味で有用です。

 

SST(生活技能訓練)

遺伝的要因に、環境的なストレスが加わると増悪しやすいことから、心理的な脆弱さを計画的な訓練によって矯正することで、再燃防止に役立てることを狙いとしています。全体的な目標設定の上で、さまざまな技能訓練を行い、習得度の評価を受けながらトレーニングを進める訓練です。

 

地域での社会復帰活動

中間ステップとしての、デイケア、ナイトケア、グループホームや、小規模作業所なども含まれます。

 

ご家族のサポート

「誰も悪くない」

ご本人が何か良くないことをしたから病気になったのではありません。親の育て方が悪かったから統合失調症になったのでもありません。ご家族はご自分を責めないでください。誰も悪くありません。

 

「いつも味方でいてあげる」という意思表示を

幻聴は、ご本人に対する悪口の形で現れることも少なくありません。ご本人は孤独感にさいなまれ、不安で仕方がない状態に追い込まれます。閉じこもりがちになるのもそのせいです。ご家族も不安で辛いと思いますが、「私たちは何があっても味方」という気持ちを伝えてください。

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